見出し画像

[読書]それでもあなたを「赦す」と言う——黒人差別が引き起こした教会銃乱射事件

アメリカ南部・チャールストンの由緒ある黒人教会で、その晩も聖書勉強会が開かれていた。飛び入り参加を装い現れた白人男性が、突然出席者に向けて銃を乱射。十二名の黒人信徒のうち九名が死亡した。犯人は白人至上主義者のひきこもり青年。インターネットで仕入れた差別思想に影響を受けての凶行だった。「国を乗っ取っている黒人」たちとの人種戦争を起こすために、世間にもっとも衝撃をあたえられそうな人々(教会に集う善き人々)を狙い実行された大量殺人事件。その背景に横たわるアメリカにおける黒人差別の根深い歴史、遺族たちの葛藤、そして信仰の力とは―

Amazon

 「それでもあなたを赦します!」は、犯人のディラン・ルーフの保釈審問での被害者遺族の発言だ。「赦す」というのは決して情状酌量を求めるわけでもない、「神があなたを赦すから、私もあなたを赦す」のだという。その場で発言した人たちに犯人の死刑を望む声はなかった。

 残念ながら僕には信仰心がないから彼女のような境地には立てないと思う。
身内にこんな悲劇があったら犯人の顔を見てこんなことはとても言えないだろう。
だけど僕も「死刑」は望まないと思う。
僕は「赦し」からではなく、死刑を望むということは犯人の「死」を背負うことだと思っているから。そんな度胸は持ち合わせていない。

 この事件を単なる異常者の犯行として片付けられるならこんなに楽なことはないだろうと思うけど、現実はそんな優しくない。
本の中で、ディラン・ルーフが犯行に至るまでの過程、殺人を犯す動機を持つに至った理由が語られている箇所がある。
それは、彼自身が自分のルーツを知りたくなったことだった。
自分達の先祖の歴史。そういうものが知りたくなった時、僕が10代の頃だったらまずは図書館に行って本を借りてくる。歴史のコーナーには大抵、郷土史として地元の歴史書だけを集めた棚があったりして、本が分かりやすく過去を教えてくれる。
けれど今は違う。歴史が知りたくて図書館には行かない。
まずはインターネットブラウザを立ち上げて検索すればいい。分かりやすく歴史を解説してくれているサイトはいくらでも存在していて、図書館までの交通費もかからない。24時間いつでも歓迎してくれる。
問題は検索でヒットしたサイトが真実を語っているとは限らないことだ。
例えばGoogleは広告費をたくさん支払った企業や、本人の普段の検索履歴からユーザーが喜びそうなサイトを真っ先に表示してくれる。
そこにデータの信憑性はないと考えた方がいい。

ディラン・ルーフもルーツを検索した結果が「白人至上主義者」が作った歴史を解説しているサイトだった。
彼はそこで誤った歴史を勉強し、間違った考えに陥ったのだ。

たぶん、僕にも同じことが起こりうる可能性はある。
日本人だから歴史を検索して「白人至上主義者」が作ったサイトに行き着くことはないかも知れないけど、問題のスケールをもっと小さくしてみた時に、芸能スキャンダルや有名YouTuberのゴシップやらを語るサイトに行き着いて信憑性も定かでない妄想レベルの記事を信じ込んだりするかも知れない。

ネットで告発系を語る番組はDM待ちで取材は一切していないというから、眉唾物だと思う。情報屋が嘘をついてたら一発アウト。配信者に責がないとなってもそれを真に受けて誰かを攻めるようなことをしていたら立派な加害者となって言い逃れもできなくなる。

差別の本質は誰かを苦しめてやろうとか、嫌がらせのために始まるのではなく間違った情報を元に生まれてくる何かだと思う。
日本における部落差別も、親の代から延々と差別するのが当たり前と言い聞かされて続いている。
差別をなくすにはきっとみんなの考える力が必要なのだと思う。

本書では黒人差別が引き起こした悲惨な事件と、遺族の悲しみがとてもよく伝わってきてやりきれない思いがある。
2度とこんなことが起きてほしくないから対岸の火事とせず、悲劇をなくすためにどうしたら良いのかよく考えてみたい。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?