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社内恋愛の思い出

ちょっと大丈夫?!こんなこと書いちゃって‥‥と思ったが、そんなこと言うんだったら他のも全部まずいでしょうが、と思い直したので書くことにした。


昔むかし社内恋愛をしていたことがある。
秘密にしなければならない方のやつだ。
相手は20歳年上の人だった。


社内恋愛って独特な楽しさがある。

・デートできなくても社内で会うチャンスがある(部署やフロアが違っても)
・会社に行くのが楽しくなる(休日がむしろ迷惑)
・仕事の話を真剣にしている姿などを見られる(椅子じゃなくて机に腰掛けて誰かと真剣に話しているのがカッコいい、など。(急な具体性))

といった具合に。


彼は目立つ部署の目立つ役職の人だったが、全然偉ぶらない愛嬌のある人だった。
仕事に対しては非常に真面目だけど、彼がいるだけで場が明るくなるような雰囲気を持っていた。
上からも下からも頼りにされるタイプで、社内では常にあちこちで呼び止められており、しかし忙しいので大抵歩きながら相手の話を聞いていた。
両手をポケットにつっこんで、ちょっとうつむくように相手の話を聞き、頷きながら歩く彼の後ろ姿が私はとても好きだった。


エレベーターの途中の階から彼が乗って来たりするととても嬉しかった。
とはいえ秘密の恋愛なので、お互い眉ひとつ動かさないのだが。
ここでも彼は乗り合わせた人達からなんやかんや話しかけられて、笑ったり笑わせたりしている。
私は素知らぬ顔でおすまししているのだが、誰かが「津田もそう思うでしょ?」などと話を振ってくる。
私は笑顔で「さあ‥どうでしょう?」などと答えながらさりげなく彼を見ると、彼は昨夜セックスしたことなど微塵も感じさせない顔で私を見ている。


彼から内線がかかってくるだけでも楽しかったし、部署をまたいだ大きな会議で彼と一緒になるのも、会社の近所でばったり会うのも嬉しかった。


惜しむらくは、二人の仲が全然うまくいっていなかったことだ。(根本問題)
彼は私に対して冷たい態度ばかり取るし、私も素直になれず生意気なことばかり言って、ともかく喧嘩ばっかりしていたのだ。


私が自分の部署で雑談している時、
「Mさんって、津田が来てからウチの部によく顔を出すようになったよね」
「ほんと。絶対津田さんのこと気に入ってる」
などとみんなに笑いながら言われたが、
(いえそれが‥‥もう既にセックスする仲なんですけど、本当に冷たくされてるんです‥‥。ぜんっぜん気に入られてない)
と思った。


数年後、私は彼に冷たくされていたからというわけではないが、縁あってその会社を辞めて別の会社に行くことを決めた。
その時点で、彼とは相当険悪な状態になっていた。
別れ話こそしていないが(もともと付き合っているとも言えなかったが)、ほとんど絶交状態だった。
会社を辞めることさえ伝えないぐらいだった。


ある日、彼は私が辞めることをどこからか聞いて電話を掛けてきた。
そして極めて普通の声で、
「あなた辞めるんだって?」
と言うので、
「うん。辞めるわ」
私も彼に負けないぐらい簡潔に答えた。
「でも〇〇(転職先)に行くならこれからも付き合いはあるな」
彼がめずらしく距離を縮めてくるようなことを言っても、
「そう?どうかしら」
と意地を張ったまま答えた。


最後の出社日から数日経った頃、また彼が電話を掛けてきた。
「あなた結構人気があるんだな」
「なんで?人気なんて無いわ」
「だってあちこちであなたが辞めて淋しいって言う声聞くもん」


‥‥まじ??!!
私は内心、大喜びだった。
(みんな‥‥‥‥ナイスアシスト!!)
と思った。
もし本当にあちこちの人が淋しがってくれているならそれ自体嬉しかったし、彼がそれを聞いて私と絶交状態であることを惜しんでくれているのならそれも嬉しかったし、あるいは私に電話を掛けるためにそんなでまかせを言っているのだとしたらそれも嬉しかった。


なので、そこからまただらだらと関係が続いてしまった。
社内恋愛が社外に変わったとはいえ、喧嘩ばっかりなのは全然変わらなかった。
でも彼は基本的に面白い人だったし、尊敬できる人だった。
大好きだった。


だから、今でも私の社内恋愛は良い思い出のままだ。










↓ Mさんのこと


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