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彼の噛みあと

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30歳以上年の離れたおじさまとの恋愛の話です。この彼がしてくれたことや会話を覚えていたいと思って、現実の思い出をフィクションでぐるぐるにくるんで小説にしました。
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彼の噛みあと 第1話

園子は、乗船の順番を待つ客で賑わうラウンジで人々を眺めていた。 ホテルのような巨大な客船なので、その人数だけでも相当なものだ。 園子のいる中2階から下を見渡しただけでも5〜600人ぐらいはいそうである。 しかもラウンジはここだけでは無いという。 全体的に落ち着いた年齢層が多く7割ぐらいは欧米人だろうか。 園子と同世代の客はほとんど見えない。 その時、園子が立っているすぐ横にあるエスカレーターを昇ってくる乗客達の中の1人の男性と目が合った。 65、6歳ぐらいだろうか、髪は豊か

彼の噛みあと 第2話

園子と祖母はレストランを出た後バーに寄って、軽く飲んでから部屋に帰って来た。もう23時を少し過ぎている。祖母はあくびをして、 「ああ、さすがに疲れちゃったわ。私先にシャワー浴びさせてもらうわよ」 「どうぞ、もちろん」 園子はバルコニーに出て、船を前に進める壮大なエンジンの音を聞きながら、暗い海と星空を眺めた。ひんやりとした風を心地よく感じながら、備え付けられている椅子に座り、バッグからiPhoneを取り出した。 (どうしよう‥‥) 園子はもちろん彼にメールをするつもりである。

彼の噛みあと 第3話

園子は部屋に帰って来てシャワーを浴びたが、自分がすごく濡れてしまっているのがわかり、顔が赤くなった。その後ベッドに入ったが、さっき自分に起こったことを思い返すと胸が甘くしめつけられて眠れない。 初めて会った人とあんなことをしてしまったなんて‥‥。 彼は一体どういう人なのだろう? 化粧室に立つふりをして私のことを待っていたり、メールアドレスを書いた紙を事前に用意して渡して来たり、その日の内にメールで突然誘ってきたり‥。 しかもそのメールは、急ぎの用事だからだろう、開かなくても

彼の噛みあと 第4話

かといって、園子は自分からメールをするのは躊躇った。 昨夜キス以上のことを心の中で求めてしまっていただけに、「今日はここまでにしておこう」と言われたのが「おあずけ」をされたようで、自分からメールをしてしまったら、いかにもそれ以上のことを早くして欲しい、と言っているように見えてしまう気がして恥ずかしかった。 実際に彼がどう思うかはわからないが、少なくとも自分の気持ちを自分で認めるのが恥ずかしかった。 彼からメールが来たのは、それから丸1日以上経ってからだった。 昼食を食べ終え

彼の噛みあと 第5話

「もっとあなたのこと苛めるつもりだったんだけどな。あなたがちょっと可愛すぎた」 呼吸がおさまって来た時に、彼は園子の頭を撫でながら言った。 園子は胸が甘く締め付けられた。そして彼の名前を呼びたくなり、 「あ‥の‥」 と言いかけたが、何と聞いたらいいのかわからなくなっていると、 「僕の名前?」 と、驚くほど園子の聞きたいことをそのまま言ってきた。しかし、その後は笑顔で突き放すようなことを言った。 「言わない。検索したくなっちゃうでしょう?」 園子は急に淋しくなったが、彼は続けて

彼の噛みあと 第6話

それからまた2日間、彼からの連絡は無かった。 バスルームにある大きな姿見を見ると、両方の胸と腿に、彼に噛まれた所がアザになって残っている。園子はそのアザを見るたびに、彼のことを思い出して恋しくなっていた。 しかし、園子は彼からの連絡を待ち焦がれてはいたが、「次はもっと苛めるから覚悟しておいて」と言われたので、会いたいような、会うのが怖いような気もしている。 (どんなことをされるのかしら‥‥) あの時、彼に噛まれたことも頬を叩かれたことも、自分でも驚くほど感じてしまったが、それ

彼の噛みあと 第7話

「あ‥んん‥んっ‥!」 彼のキスだけで溶けそうになってしまう園子に、 「その声は何度でも褒めたいよ。欲情がかき立てられる」 と彼は微笑みながら言い、園子の腕をつかんでベッドに倒した。 「園子、四つん這いになって」 園子は不安そうな顔で彼の顔を見たが、草履を脱いで言われた通りにベッドに四つん這いになった。 すると彼はいきなり園子の着物の裾を捲り上げ、露わになったTバックの下着を下ろした。 この間と違って部屋が明るい。 「あっ‥‥!!いやっ‥!恥ずかしい‥‥!いや‥!」 「何が恥

彼の噛みあと 第8話

「どうもダメだな。いつもあなたが可愛すぎて、僕もすぐイキたくなっちゃう」 園子が身仕舞いをしてソファに座った時に、彼がミニバーにあったワインをグラスに注いで園子に手渡しながら言った。 彼は実際、本当は園子の着物を脱がすつもりであった。しかし園子があまりに自分の望む通りの、むしろ想像以上の反応を示すので、つい我慢できなくなり園子に自分を挿れてしまったのだ。 「あなたが煽りすぎなんだよ、僕を」 そんなことを言われて、園子は赤くなった。嬉しさと恥ずかしさで頭が痺れてしまう。 「そも

彼の噛みあと 第9話

乗船してから7日目、初めての寄港があった。 カナリア諸島に属するその島の海は、明るい日差しに照らされて青とも緑ともいえないような美しい色をしていた。街並みは園子が思っていたよりも賑やかで、ずっと船内の光景を見慣れていた目に新鮮な楽しみを与えた。 「気持ちの良い島だこと。半日じゃ足りないぐらいね」 祖母も同じ感想だった。 夕方には船に戻るスケジュールなので、二人はあまり遠くへは行かず、近くのレストランで食事したり街中で買い物などをして過ごすことにした。 気持ちの良いテラス席で

彼の噛みあと 第10話

夕暮れの頃、園子と祖母は街から船に戻った。 エレベーターで10階に上がり、部屋に続く廊下への角を曲がると、遠く前方に彼の後ろ姿が見えた。奥さんと、どこかで合流したのか秘書の男性と3人で歩いている。 (‥‥あの方向ということはスイートルームなんだろうな) と思った。 先日のフォーマルパーティの時は、奥さんと一緒にいるところを見ても特に淋しさは感じず、彼と会えたことだけが嬉しかったのだが、今日は心が締め付けられるような気がする。 彼は、奥さんと一緒に、素敵な船の素敵な部屋で楽し

彼の噛みあと 第11話

園子は彼が勧めてくれた通り、図書室に行ってみることにした。 「おばあちゃまも行く?」 「私は今読んでる本が終わってからにするわ」 「そう、じゃあ行ってきます」 「どうぞ。ごゆっくり」 図書室は、クラッシックでエレガントで内装自体がまず素敵だった。硝子戸のついた木目美しい飴色の書棚で室内中が埋め尽くされていて、書棚の内側からライトに照らされたたくさんの書物が、見る目にも楽しく陳列されていた。 園子はわくわくしながら書物の背表紙を眺めて歩いていたが、絵画集が並んでいる書棚の前で

彼の噛みあと 第12話

園子は部屋に着いて、ドキドキしながら彼を待っていた。 今日こんな風に彼と会えると思っていなかった。 「今から部屋に行こうか」 という誘われ方も、二人で相談して決めたように感じ、なんだか彼と親しくなったみたいで嬉しかった。 間もなく彼が来た。 彼は部屋に入るなり園子を抱き寄せて、首筋にキスをして来た。 「あ‥‥っ」 園子が声をあげると、彼は黙って園子の手を取ってベッドへ連れて行った。 そして園子の服を脱がせて横たわらせると、ベッド脇のサイドボードからネクタイを取り出し、 「手

彼の噛みあと 第13話

その数日後のことである。 夕食を済ませた後、園子と祖母がバーで飲んでいると、先日のフォーマルパーティーの時にちょっと話をした日本人の老夫婦が偶然やってきたので、同じテーブルで飲むことになった。 よくよく話を聞くと、婦人の姉が祖母と同世代で、しかも同じく医者をしていたということがわかり、二人の間で話が盛り上がった。 「あら!それじゃ大学も同じですよ」 「まあ!そうでしたの。私と2歳しか違わないということは、お顔ぐらい存じてるかもしれませんわね」 「本当に。姉も来ていたらさぞ喜ん

彼の噛みあと 第14話

園子は彼からのメールによって物思いに耽ることになってしまったが、そのあと3日間彼からの連絡は無かった。 今日は2度目の寄港があったのだが、そこでも彼に会うことはなかった。 園子は、淋しいようなホッとするような複雑な気持ちだった。 祖母は先日のバーから例の日本人夫婦と交流が深まり、今日は婦人と一緒にお茶を飲んでくると言って、園子と昼食をとったあと出かけていた。 彼からの誘いが来たのはちょうどその時だった。 【園子、何してる?今から出てこられる?】 (あ‥どうしよう、まだ心の準