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立山登山のおもいで -私編-

標高3000m級の山々が連なる立山連峰。

県道62号線を小杉から富山方面に向かい車を走らせると、雄大な立山連峰が目の前に現れてくる。晴れた日には山の輪郭がはっきりと見え、まるで絵に描いたような美しい景色は神々しく、寛大な心で見守られているような感覚になる。

富山に越してから、いつも遠くから眺めているだけの立山連峰だったけれど、今から8年ほど前に、友人が日帰り立山登山に誘ってくれた。

立山は「雄山」「大汝山」「富士の折立」の三峰の総称で、その最高峰は大汝山の標高3,015m。これらの山々は室堂ターミナルからもアクセスしやすく、ルート内には鎖場などの危険個所は無く登山初心者でも安心して登山を楽しむことが出来ると言われている。

私の登山経験は、中学生の時の学校行事で登った、中央アルプスの駒ケ岳のみ。道幅の狭い馬の背を1列になって歩く。私の前を歩いていた男の子はクラス一の立派な体格で、「お願いだから転ばないでね」と心の中で唱えていた記憶は今でも残っている。

その時の登山では、服装も中学校のジャージ、靴も普段履きなれた運動靴、登山リュックも指定されたもの。持ち物はしおりにすべて書かれていて、その通りに準備すれば万全に揃った。

立山登山に誘われ、登山経験のない私は、ネットでその時期に適した服装や、登山シューズについて調べ、登山用のパンツと靴を買い揃え、その他のウエアやリュックは家にあるもの(グローブはブツブツのついた軍手)で準備し、立山登山に臨んだ。

立山駅の駐車場に車を停め、立山駅から美女平までケーブルカー(約7分)に乗り、高原バス(約50分)に乗り換えて室堂ターミナルに到着。

室堂周辺を少しだけ散策し、次の目的地の一の越(いちのこし)へ。一の越までのルートは石畳の歩きやすい道。後半は上り勾配の箇所もあったけれど、山の草花を見たり、友人との会話を楽しみながら登っていけるほどだった。

登山前には友人から、一の越の公衆トイレを使うためには小銭(100円)がいることを教えてもらっていたので、あらかじめ小銭を準備し、一の越のトイレがどんな感じなのか興味津々に利用させてもらった。

標高2700mにある公衆トイレとは思えないほど、清潔で使いやすく、水洗式トイレに感謝しながら、100円を投入した。

その後、一の越から左斜め上を見上げると、さらに上を目指す登山者が何人も見える。私は友人に、
「みんな、どこを目指して登っているの?」
と尋ねると、
「雄山山頂だよ。」
と教えてくれた。

かなり急な斜面と、今まで歩いてきた道とは違う整地されていない登山道。この先は大変そうだな、と思ったけれど、装備は万端、この斜面に挑戦したくなり、雄山山頂からの景色も見たくなった。

「無理はしないように、行けるところまでいこうね。もし、途中で私が辛くなったら、ちいちゃんひとりで登ってもらって良いからね。ここからは、それぞれ自分の体調に合わせて進もうね。」

友人がそう伝えてくれて、ふたりで一の越を出発した。友人は途中まで登ったけれど、体力的に不安を感じたため無理はせず、一の越に戻った。

ひとりになった私は、周りの登山者がどの岩に手を置き、どのルートを登っていくかを見て、真似ながら登った。自分の両親の年齢ほどのご夫婦や、小学校低学年くらいの男の子の姿も見られ、年齢層の幅広さに驚いた。ひとりで山頂を目指すことに不安もあったけれど、「私も皆さんと一緒に、山頂目指してがんばります!」という思いを勝手に抱き登り続けた。

無我夢中で登っていくうちに、雄山山頂に到着。

眼下には室堂が広がり、みくりが池がとても小さく見え、さっきまでそこのいたことが嘘のよう。視線をあげ周囲を眺めると、遠くに名峰らしき山が見える。けれど、名称は全く分からず。

せっかく上ってきたので、近くにいた登山者にカメラを渡し、数枚写真を撮っていただいた。両手を広げて笑顔でパシャリ。本当は、思いっきりジャンプして、手を広げた姿を残したかったけれど、それをする勇気がなかった。

写真を撮っていただき、あとは山頂で何をしようかと考えていると、もう少し先の小高いところに登山者が見える。近づいてみると、鳥居があり、その先には小さな社殿が見えた。

私なんぞが足を踏み入れてもよいのだろうか・・・。入るための約束事でもあるのだろうか・・・。迷った挙句、私は近くから眺めるだけにして、下山することにした。

ところが、いざ下山しようとしたら、どこを歩いていけば良いのか全く分からないのだ。下る方向はわかるのだけれど、どこに足を置いていけばいいのかがわからない。

こりゃ困った。

そう思っていると、登山慣れした雰囲気の男性二人が後ろからやってきたので、恥を忍んで、
「立山に上ったのは初めてで、下り方がわからないので後ろをついて行っても良いですか?」
と声をかけた。

お二人とも
「あっ、良いですよ。」
と笑顔で快く答えてくださり、私は遅れを取らないよう必死にお二人についていった。

途中から大きな岩がなくなり、一の越までのルートも見えてきたので、いつまでもくっ付いていては迷惑かと思い、お二人にお礼を伝え、そこからは一人で下山した。

それにしても山を愛する方は、心優しい爽やかな方で、突然お声をおかけしたにもかかわらず、ド素人の私でも、同じ山に登る仲間として受け入れてくださったことが本当に嬉しい出来事だった。

一の越に到着すると友人は、しばらくの間待たせてしまったにも関わらず、笑顔で迎えてくれた。
「富士山は見えた?」
と聞かれ、
「えっ?山頂から富士山が見えるの?」
と答える始末。

「山頂に鳥居があったんだけど、入っていいものなのかわからなくて」
と私が言うと、
「それは雄山神社だよ。誰でも参拝していいんだよ。」
と笑って教えてくれた。

初めての立山登山。無我夢中で登り、山頂から眺める景色に魅了され、下る際には他の登山者に助けていただき、思い出に残る登山になった。なにより、勢いづいて一人でどんどん登っていった私を、笑顔で迎えてくれた友人に感謝。

立山登山をしたことで、より富山県民になれたような気がした。

この数年後には、娘が小学校行事で同じルートを登ることに。この時は、娘に思わぬ出来事が起こり、忘れられない思い出となった。このことについてはまた後日に。

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