見出し画像

そもそもベアドッグって?

前回の記事では、ピッキオがベアドッグの繁殖に必要な資金を集めるために始めたクラウドファンディングを紹介させていただきました。

今回は、そのベアドッグについて紹介しましょう。

ベアドッグ(クマ対策犬)とは

ベアドッグの「レラ」とハンドラーの田中

ベアドッグは、クマに対して強い反応を示すように特別に訓練された犬で、クマの匂いや気配を察知する事ができます。そして自分よりも体が大きなツキノワグマに怯む事なく、大きな声で吠えたてクマを森の奥へと追い払うことができます。
また、クマの目撃情報や野生動物による被害の現場に出動し、残された匂いによりその野生動物がクマだったのかどうかを検証したり、クマの移動経路を特定してその後の被害防止に役立てることができます。
一方で、地域の子どもたちや住民の方々に、クマの生態や被害を避けるための方法を紹介する場面では、人々と触れ合うことで人とクマとの親善大使としての役割も担っています。

こどもにも優しい「ナヌック」
ナデナデされてると口が開いてしまうのはナゼ?

なぜベアドッグを導入したのか

軽井沢町はその北側半分が「国指定浅間鳥獣保護区」に含まれており、保護区の中に多くの住民が暮らしています(私の自宅も保護区内)。そして木々の多い住宅地から森の中の別荘地、広大な国有林が、すぐ近くに隣接して繋がっているため、野生動物がそこを自由に行き来することができる環境なのです。これはGoogleマップなどで航空写真を見ると、よく実感できます。保護区内では狩猟は制限されていますから、ツキノワグマたちも猟師に追われる経験をせず、のんびり暮らしていた訳です。

中軽井沢上空から浅間山を望む航空写真
ピンクに網掛けした範囲が鳥獣保護区
ピッキオで使用しているプレゼンから抜粋

また軽井沢町は「国際親善文化観光都市」を標榜する高原リゾートです。ツキノワグマのゴミ箱被害が頻発していた当時、ピッキオによる個体追跡調査で何頭もの問題個体が特定されていましたが、冷涼な気候と豊かな自然環境を魅力とする町で、国際的に絶滅が危惧されているツキノワグマを次々と駆除するという判断はできなかったのです。
そこでピッキオでは、当時アメリカで犬を使ったクマ対策を開発し、クマを傷つけずに人の生活圏から追い払うのに効果を上げていた「ウインドリバー・ベア・インスティテュート(WRBI)」から、その技術を犬とともに導入したのです。

アメリカのWRBIから譲り受けた初代ベアドッグ「ブレット」
9歳で病気により他界してしまいました

ベアドッグの犬種は?

ベアドッグに使われているのは「カレリアンベアドッグ」という犬種です。犬種名に「ベアドッグ」が入っているのですね。元々はフィンランドのカレリア地方で、ヒグマやムースなどの大型獣を狩猟するのに使われていた猟犬です。
体重25kg前後の大型犬で、三角形に立った耳と巻尾が特徴です。体型は日本犬に近いですね。毛色は白黒。鉢割れで尾や四肢の先が白い個体が多いです。これは猟師から見て視認性が高いという利点がありそうです。しかし現代日本では、牧羊犬であるボーダーコリーによく見間違えられます(悲)。

ベアドッグの「レラ(左)」と「エルフ(右)」
同じ白黒の鉢割れでもパターンは様々
目の虹彩の色にも変異がある

犬はもともと、大昔に人間がオオカミを家畜化したことによって生まれた動物です。狩猟犬や番犬、使役犬、牧羊犬、警察犬、愛玩犬など、様々な用途に合わせて品種改良が進み、多種多様な犬種が存在します。カレリアンベアドッグは狩猟犬ですが、狩猟犬といっても狩猟方法により特性が異なります。WRBIはカレリアンベアドッグの「大きな声で吠えかけて動物を追い立てる」「人とっしょに仕事をするのが好き」などの特性を見いだし、クマ対策に応用したのです。

ピッキオではWRBIから、このベアドッグを利用したクマ対策技術を導入しました。これには犬そのものだけでなく、カレリアンベアドッグにあわせて開発された訓練法や育成法も含まれます。もし、他の犬種をクマ対策犬にしようとしても、まずは適性のある犬種を選び出し、その犬種の特性に合わせた訓練法・育成法を開発するところから始めなければなりません。緊急性が高かった軽井沢では、当時すでに確立された手法を、そのまま導入する必要があったのです。

タマとナヌックが来日した時の記者会見
アメリカからWRBI代表のキャリー・ハントさんも一緒に来日した

国内で繁殖させる理由

初代ベアドッグの「ブレット」二代目ベアドッグの「タマ」「ナヌック」はどれもアメリカ生まれです。ではなぜ、再びアメリカから犬を連れてくるのではなく、日本での繁殖を試みるのでしょうか?これにはベアドッグの訓練課程と、日本の検疫制度が関わっています。
アメリカは狂犬病発生国です。そのため犬を輸入するためには、狂犬病の予防接種を受けてからでないといけません。するとある程度成長し、訓練途中の状態で来日しなければいけないのです。また、来日前にはハンドラーとなるスタッフが何度も渡米し、犬との結び付きを深めたり、その月齢に必要な訓練をしてから一緒に来日する必要があります。これが日本国内で繁殖となれば、訓練のごく初期からハンドラーと共に訓練・成長することができるようになるのです。

2018年の冬に「タマ(左)」の繁殖のため
アメリカのWRBIから来日したオスの「リオ(右)」
出産1週間後の「タマ」とハンドラーの田中
繁殖のために建てた小屋の中で

ピッキオで3代目のベアドッグとなる「レラ」と「エルフ」は、5年前に日本で「タマ」が出産しました。そして今回は「レラ」が繁殖に挑戦します。ピッキオでは2回目の国内繁殖への挑戦です。引き続き安定してベアドッグのチームを維持するためにも、そして将来、日本でベアドッグの活動を広めるためにも、今回の国内繁殖を成功させたいと思っています。

生後1ヶ月半の「エルフ(左)」と「レラ(右)」
右端はベアドッグにならなかった「シュン」

皆様のご支援をお願いいたします。


ところで、、、

仔犬は全員ベアドッグになれるの?

犬といえば多産と安産の象徴です。前回のタマの出産では、6頭の仔犬が産まれました。しかしその兄弟姉妹の中で、現在ベアドッグ(クマ対策犬)として活躍しているのは「レラ」と「エルフ」の2頭だけです。残り4頭は今、どうしているのでしょうか?

生後3ヶ月の「シュン(左)」と「レラ(右)」

仔犬たちは生後2か月頃から約1ヶ月間かけて、ベアドッグ(クマ対策犬)としての適正テストを受けます。そのテストを合格した仔犬だけが、クマ対策に従事する「ベアドッグ」として養成されることになります。残りの仔犬は、家庭犬として引き取られることになりました。しかしカレリアンベアドッグは吠え声が大きく、負けん気が強く、運動量が多い、飼育しにくい犬種です。そこで最初はいつでもサポートできる近隣で飼育されるのが良いだろうと、ピッキオのスタッフが各家庭に引き取ることになりました。上の写真に写っている「シュン」は、今、我が家の愛玩犬としてのんべんだらりと暮らしています。

我が家の「シュン」
とりあえずPCに入ってた2019年の写真
フィンランド原産のカレリアンベアドッグは
軽井沢の寒い冬でもへっちゃら
真冬の氷点下でも平気な顔をして屋外にいる

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?