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舌の根が乾いた

 買い物を終え、私は車を降りた。買った物を持ち出そうと、後部座席のドアを開けようとしたとき、夫が

「荷物はオレが持っていくよ」

 と言ってくれた。ご厚意に甘え、私は手ぶらで自宅へと戻る。
 車を駐車場に入れると、夫は車のボディーに傷がないか確認したり、気になる汚れを拭いたりしているので、私より遅れて自宅に戻ることが多い。私はその間にコーヒーを入れたり、台所を片付けたりしていた。
 しばらくして夫が、
「ただいま」
 と帰宅した。手ぶらである。
「あれ?荷物は?」
 と聞くと、「あ」と言った。「荷物はオレが持っていくよ」と言ってから5分も経っていない。私が思わず、
「舌の根の乾かぬうちにって感じだねぇ」
 と言って笑っていると、夫はニヤニヤしながら車に戻って行った。荷物を手にして再度帰宅すると、

「いやぁー、乾いてた乾いてた!」

 そう言いながら、夫は買ったばかりの缶ビールを買い物袋から取り出した。よほど舌の根が乾いていたのだろう。プシュッと開けて、そのまま美味しそうに飲み干してしまった。




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