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腕組みマシマシ
夫と晩酌をしながら、
「最近二郎を食べてないね」という話になった。我が家にとって二郎というと、私が作る簡易版の二郎風ラーメンのことである。
二郎のラーメンは、乳化もしくは非乳化のスープに、やや不揃いな太麺が浸かり、その上にたくさんのもやしとキャベツがのっている。
厚切りのゆで豚、刻んだ生にんにく、そしてドロリとした背脂がかかっており、これらを麺とスープに絡ませながら、ワシワシ食べるラーメンだ。
一度食べたら癖になる。とにかく根強いファンがいるのが特徴である。
二郎のラーメン最大の難関は、注文をする際、呪文を唱える必要があることだ。自分好みにしようと思ったらスターバックスコーヒーも恐れをなすような摩訶不思議な呪文を唱えなければならない。
背脂なし、野菜多め、スープのタレ多め、ニンニク少なめ
を注文したい場合は、
「アブラナシ ヤサイ カラメマシ ニンニクスクナメ」
野菜非常に多め、スープのタレ多め、背脂少なめ、ニンニク多め
を注文したい場合は、
「ヤサイマシマシ カラメマシ アブラスクナメ ニンニク」
こんな呪文が本当に存在するのだから驚きだ。魑魅魍魎も恐れをなして退散しそうな呪文である。この呪文を舌を噛まずに唱えることができるだろうか。そんな不安から私達夫婦は、未だにお店で二郎を食べたことがない。
二郎だけでなく、最近のラーメンの多種多様性は本当にすごいものがある。あまりにもいろいろなラーメンがありすぎて、他と差別化を図るのが難しいのではないだろうか。どんなに奇抜なことをやっても、もう他の店がやっている、ということがありそうだ。
そんなことを話していたら、夫がこんなことを言いだした。
「腕組みを注文できるラーメン屋があったら、お客さんに受けるんじゃないかな」
一体どういうことなのだろう。
男っぷりのいいラーメン店主と、腕を組んで写真でも撮れるサービスだろうか。確かに、一部の人達からは喜ばれそうな気もする。
そう言うと、
「違うよ。雑誌なんかでラーメン店主はよく腕組みをしているじゃない。注文するとアレをやってくれるんだよ」
夫が言うには、マクドナルドにある例の「スマイル0円」みたいなシステムで腕組みを注文するらしい。
私の脳裏には、客の
「腕組みひとつお願いします」
の注文に、店員が
「ハイ!腕組み一丁!」
と、調理場に勢いよく言い放つ光景が思い浮かんだ。しかし店側は、どのタイミングで腕組みを披露することになるのだろう。夫に聞くと、
「そりゃ、注文してすぐだよ。新鮮なうちに腕組みだよ」
何をもってして新鮮なのかはよくわからないが、注文が入った途端に、調理場にいる全員が作業の手を止め、一斉に腕組みをするさまは壮観だろう。ラーメンを食べる以上に力がみなぎる気がする。元気がないときなどは、アンコールをお願いしたくなりそうだ。それを話すと夫はこう即答した。
「そんなときは二郎みたいにマシマシって言って頼むんだよ。腕組みマシマシだよ。腕組みマシマシ」
まさか、こんなところで二郎の呪文が活かされるとは思わなかった。夫の返答に感心していると、
「やっぱりね、いい腕組みをするには筋トレは欠かせないよ。腕組みマシマシのために、毎日水の入った寸胴鍋を持ち上げてトレーニングだよ。涙ぐましい努力を重ねて客のマシマシに応えてるんだよ。遊びじゃないんだよこっちは!」
なぜか怒られてしまった。
私は一応、夫に「スミマセン」と言って謝った。
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