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セルフマイクロナノバブル



最近、バブルが気になっている。

バブル、と言われると、
ついついピチピチのボディコンを着たお姉さまが、
羽根の扇子を持って、舞い踊る姿を連想してしまうのだが、
ボディコンのお姉さんの話ではない。
シャワーヘッドの話である。

シャワーヘッドといえば「節水」くらいしか頭になかった私に、
突如、マイクロナノバブル、という黒船が来航した。
今、黒船来てるらしいよ、と噂は聞いていたが、
自分の港にはあまり関係のない話だと思っていた。

しかし、話を聞いてみると、
皮膚の汚れが落ちやすい、体臭がしなくなった、美髪なった、
抜け毛が減った、と、まぁ、すこぶる評判がいい。
そのシャワーのお湯で湯船を満たすと、
入浴後の湯冷めがしにくい、などという話も聞く
そんなに凄い黒船だとは知らなかった。

私は、別にアトピーでは無いのだが、結構体がかゆい。
夏は汗でかぶれ、冬は乾燥で痒くなる。
しかも髪の毛が硬く、ややくせ毛なのだ。
もし、シャワーヘッドで、それらの悩みが軽減されるなら、
こんなに嬉しいことはない。

よし、買おう。

私は高らかに開国を宣言し、ネット検索をし、値段を見て、
鎖国を決めた。
技術をお金で買うわけだから、1万超えは仕方ないのだろうが、
我が家は正月に電子レンジが壊れ、買い替えたばかり。
即、必要ではない買い物をするのは気が引けた。

「あーあ、バブりたいなぁ~」

入浴しながら、思わずつぶやく。
一度抱いてしまった憧れはなかなか消えない。
私は風呂に浸かりながら、じっと湯の表面を見た。

手動で泡を立てたら、どうなるだろうか。

私は、手のひらで、DJさながら、湯を高速にスクラッチした。
バシャバシャと、小気味よく湯が音を立てる。
少し、湯が泡立った。
今度は両手でスクラッチした。
更に湯が泡立った。
今度は、手のひらではなく、猫のように指を少し丸めて
湯をスクラッチしてみた。
よく泡立つ。

泡立ちが収まった湯の表面から、
湯船につかる自分の腕を見てみると、腕毛に気泡がついていた。
何だか、湯がやわらかくなって、肌当たりが良い気もする。

これいけるんじゃないか?

そう思った私は、バタ足をして、更に湯を泡立たせてみた。
泡立った湯をかき回し、全体に気泡を行き渡らせる。
猫手で高速スクラッチをし、また湯をかき回す。

バブル発生源である私の動きは、
ボディコンお姉さまの乱舞さながらの激しさであった。
はたから見れば、中年女が入浴中、突然悪魔にとりつかれ、
暴れ出したかのようにしか見えない、恐怖の光景である。
ここが外国だったら、湯船の外で、エクソシストさながらの
悪魔払いの儀式が始まってしまうだろう。

湯船に細かい泡が漂っているのを確認し、私の乱舞は終了。
悪魔祓いの神父さんにはお引取り頂き、
私は、ふぅ、とひと息ついて、自ら泡立てた風呂を堪能した。

最近では、ありとあらゆるものがセルフになっている。
ガソリンスタンドも、スーパーのレジも、
何でも、ご自分でどうぞ、
というセルフの時代になってきている。
この、自ら泡立てるバブル風呂を今風に名付けるならば、
セルフマイクロナノバブル
といったところだろう。

「お湯もなめらかで、あったまるし、マイクロナノバブル最高だわ!」

風呂上がりのチューハイをキュッとやりながら、
ご満悦の私に、夫は、

「そりゃあ、湯船であんなにバシャバシャ暴れてたら、
いつもより体があったまるだろうね。当然だね!」

そう言ってケタケタ笑った。

正論という、キンキンの冷や水を夫から浴びせかけられ、
せっかく温まっていた私の体は、
ブルブルミラブルと冷えはじめるのであった。





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