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花丸恵・毒娘からの脱却!

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アダルトチルドレン気味の自分が、本当の自分に辿り着くために書くエッセイです。 家族に対する複雑な思いから、感情の手放し方法を探っていく過程を書いていきます。 玉葱の皮を剥くように…
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記事一覧

金柑の思い出

 金柑を見ると、思い出す人がいる。  ひとりは母で、もうひとりはデパ地下で出会った通りすがりの女の人だ。  金柑は、ピンポン玉ほどの小さな柑橘類の果物だ。ひょっとしたら、卓球もできるのではないかと思えるくらい、丸くてコロコロとしている。  私の母は、旬になるとこの金柑をよく買って食べていた。母の口から、 「私、金柑大好きなのよぉ」  と言っているのを聞いたことはないので、大好物ではないのだろうが、時期になると、母は一人で金柑を食べていた。  随分前に、夫、祖母、母、私の

金太郎がタイプです

 高校生の頃、私と母と姉、女三人でちゃぶ台を囲み、どんな男の人がタイプが、という話になったことがある。こういう話は親子の年齢差を越えて、案外盛り上がるものだ。私や姉は、当時好きだったミュージシャンの名前を上げて、その魅力を熱く語っていたが、母は思いがけないところから、タイプの男を連れてきた。 「お母さん、金太郎みたいな人がいいわぁ!」  金太郎とは、まさかりを担ぎ、熊と相撲をしてアグレッシブに投げ飛ばす、あの金太郎である。  金太郎は、坂田金時という実在の人物がモデルと

お辞儀が前屈

「いくら自分の方がうんと年上だからって、 子供の担任の先生に馴れ馴れしく話すなんて信じられない!」 母がプンスコプンスコお怒りである。 保護者会で、自分よりうんと若い先生に対し、 なぁなぁでおしゃべりする保護者がいたようで、 そのことに対して母は大変憤慨していた。 「どんなに自分が年上だからって、相手は先生なのよ!  自分の子供がお世話になる先生なの! 敬うのが当然でしょう。 そんなこともわからない人間が親やってるんだから チャンチャラおかしいわよ。そんなバカなやつはねぇ

あのオレンジの人、ウチの母です

小学生の時、初めて泊まりがけの行事があった。 林間学校や臨海学校と呼ばれるものだ。 私の小学校では、5年生になると、 その行事に強制的に参加させられることになっていた。 普段の学校生活でもしんどいのに、 泊まりがけで2泊3日も集団行動を強いられることに、 当時10歳の私は白目をむきそうになっていた。 当日、保護者の見送りと出迎えが可能となっていたので、 その日は多くの親御さんたちが、 子供を見送るため、学校に来ていた。 私の母もその中の一人だった。 貸し切りのバスが到着し

愛と自分の紙コップ

私が生まれてこなければ、 母はもっと自由に生きられたのではないか。 この思いは、私の自己否定の起点でもある。 私の父と母は、私が生まれた時、既に良好な関係ではなかった。 私が生まれなければ、姉を連れて、母を実家に返し、 離婚させるつもりだった、と、親類から言われたことを、 私は長いこと、呪いの言葉にしてしまっていた。 母は、私が生まれることによって、夫婦に良い変化があることを 期待したのかもしれないが、私が生まれたからといって、 夫婦仲がよくなることはなかった。 そんな家

人それぞれ念仏

最近、90歳の現役フィットネス・インストラクターが メディアを賑わせている。 その姿を拝見し、 「私よりも元気ハツラツだな!」 と思わず笑ってしまった。 いくつになっても生き生きとしていることは素晴らしい。 あの元気な姿を見れば、 「お母さんよりも年上だよ。お母さんも頑張んないと!」 なんて、つい、口をついて出てしまいそうだ。 でも私は、最近、そういうことを 自分の親には言いたくないと思うようになった。 老いは、肉体的な機能性を失なっていくことだ。 長く生きれば生きるほど、

人の気持ちに名札をつけない

人と関わっていると、相談を持ちかけられたり、 思わぬ状況で、ふと、誰かの気持ちを聞くことがある。 ちょっとした愚痴や、立ち話の中にも、 人の思いは含まれているものだと思う。 例えば、就職したばかりのAさんが 「同期のヤツが、仕事の憶えも早くて何でもソツなくこなすんだよ。 アイツを見てると、オレ、落ち込むんだよなぁ…」 と誰かに話したとする。 Aさんの一言を聞いて、 自分に自信がないんだなぁ と思う人も入れば、 同期の人に嫉妬しているんだ と思う人もいるかもしれない。 たった

あの日の獅子座流星群

「ようやくローンが払い終わったのよ」 台所で、母からそんな話を聞かされたのは、高校生の頃だった。 その日から10年も経たないうちに、 その家を売らなければならなくなってしまった。 いろいろあった家だった。一筋縄ではいかない家族だった。 私達家族にはびこる負の全てが、 この家を食い潰してしまったような気がした。 家を手放さなければならないと知った時、 私は、すでに結婚して家を出ていたものの、 帰る家がなくなることはショックだった。 とうとうここまで来てしまったかという思いが、

この傷の蓋が開いた

お隣さんから、赤ちゃんをあやす声が聞こえる。 親御さんが気の毒になるほど、よく泣く赤ちゃんで、 時には、叫ぶように泣いている。 お母さんが機嫌良くあやしている時もあれば、 育児の葛藤を感じさせる声が、壁越しから聞こえてくる時もある。 そんな声を聞くと、私はドキッとして、 どうしたらいいのかわからなくなる。 私には子供がいない。 そのことに、私は大きな罪悪感を抱えている。 しばらく、その気持ちは奥に蓋をしてしまっておいたのだが、 元首相の女性蔑視発言に端を発し、 ニュー

返事しがちな人

私の母は、よく、返事をしている。 電話がかかってくれば「はいはい」 お風呂が沸いても「はいはい」 レンジが鳴っても「はいはい」 テレビドラマで、ピンポーンと聞こえてきても、 「はいはい」と返事して、玄関へ向かっていく。 私が「テレビだよ」と教えると、一言二言、テレビに悪態ついて 台所に戻っていくのだ。 実際鳴っているものならまだしも、何も言っていないのに、 「何か言った?」 と、たまに幻聴を聞いたかのように、返事をしてくる時もある。 怖い。 話がオカルトチックになる前

12歳の少女に42歳が救われた話

怒りから一夜明け、ようやく冷静を取り戻してきた。 随分怒ったなぁと、思う。 怒りの理由は、昨日のnoteを見て頂きたい。 イジメの経験を持つ少女が、小学校の卒業文集に向け、 文章を綴ったのだが、それを教師から、書き直してほしい、 と言われた話に、私が激怒したという内容だ。 私の激怒の様子からもわかるように、私もイジメの経験者だ。 私の姉も小学生の頃イジメられていたのだが、 姉はイジメに屈することなく、学校に行き続けた猛者で、 かたや私は、逃げ出し、不登校になった小心者。

身をよじる

前向きな人は、過去にこだわらない。 読んで字のごとく、過ぎ去った事ととらえ、今を生きている。 そう考えると、私は過去にこだわりすぎている。 母や身内に、過去に言われたことなどに、スッと心が戻ってしまう。 自分がいかに、「今」を生きていないか痛感してしまう。 過去を俯瞰で見られないのだ。 過去の出来事が、今の感情に影響してしまう。 例えば、今、私が、母に何か言われたとして、 その発言が、母との過去の出来事を引っ張り出してしまう。 物凄い勢いで紐付けされていく。 あの時、ああ

目的を迷子にしないために

先日、私の母が、自宅の前で、迷子の男の子に遭遇した。 先に、若い女性が、男の子を保護していたらしいのだが、 泣いている男の子を目前に、どうしていいかわからず、 オロオロしていたそうだ。 母が話しかけると、男の子は母の手を握って離さなくなったという。 こういう時の母は、実に頼もしい。 もう、見た目からして、子供に安心感を与える雰囲気がある。 どっしりしていて、丁寧で、子供が親しみを感じるものを 多く持っている人だと思う。 男の子も、母と遭遇して、多少は安心しただろう。 母は

ポッキーのおばさん

                     ・ショートストーリー・ 冬の日、団地の立ち並ぶ街中を、僕は一人歩いていた。 ヒューッと風が音を立て、耳の裏を通り抜ける。 ちょっと、コンビニのおでんでも買って食べようかな。 その風の冷たさに、思わずおでんが恋しくなってしまう。 僕は、日の短さを感じながら、駅に向かって歩いていた。 「わーーーーーーん!」 遠くで子供の泣く声が聞こえてくる。 張り裂けそうなその悲痛な声に、僕は声のする方を見た。 小さな男の子が、一人で泣いている