マガジンのカバー画像

おもちょろい夫

67
面白いことを、ちょろっと漏らしがちな夫が登場するエッセイです。面白いだけではなく、たまに哲学的なことも言ったりします。
運営しているクリエイター

#私のパートナー

話を聞いてほしい話

 クレイジーケンバンドの曲に『タイガー & ドラゴン』という歌がある。サビの部分で、ボーカルの横山剣さんが 「俺の話を聞け~。5分だけでもいい~」  演歌のようにこぶしを回し上げた後、 「貸した金の事など どうでもいいから~」  と歌は続く。  できることなら貸した金はキッチリ耳を揃えて返してほしいが、そんな事情を差し置いても、とにかく今は話を聞いてほしい。そういう気持ちが、私にもよくわかる。  どちらかといえば私は話したがりなほうだ。  思考の声は絶え間なく頭の中を流れ

詰め寄られる夫

 夫に初めて会ったときのことを、今でも鮮明に憶えている。  後ろ姿で立っていて、顔が見えないにもかかわらず、何か見えざるものから「この人ですよ」と言われているような感覚があった。大袈裟だと笑われるかもしれないが、一瞬のうちに縁のようなものを人に感じたのは、後にも先にも、このときだけだ。  その縁は実を結び、一緒になって22年になる。  ずっと夫婦二人で暮らしてきた。子供はいない。そのせいで自責の念に苦しんだこともあったが、夫はそんな私を、何も言わずに見守ってくれた。  私

妻によるジャイアンリサイタル

 もし、長年連れ添った妻に、何の前触れもなく、「好き」などと言われたら、夫はどう思うだろうか。  近年、愛情はできるだけ伝えよう、という傾向が強くなってきている。しかし、日本人は元々、好きだの、愛してるだの言わない民族なのだ。アイラブユーを「月が綺麗ですね」と訳すような民族なのだ。そんな日本人が、ある日突然、長年連れ添った伴侶に 「好き」  などと言ったら、どうなるか。  もしや、浮気でもしてるんじゃないか!  急にご機嫌取りして、どこかで無駄遣いでもしてきたな!  とい