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おもちょろい夫

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面白いことを、ちょろっと漏らしがちな夫が登場するエッセイです。面白いだけではなく、たまに哲学的なことも言ったりします。
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#創作大賞2024

六千万の胸騒ぎ

 ああ、鉄筋コンクリートの建物って、なんて楽なんだろう。  現在の住まいに越してきたとき、私はそう思った。  それまでは、都内某市に16年間暮らしていたのだが、そこは木造二階建てのアパートだったからだ。  元々、夫はあまり住処こだわりがなく、通勤にかかる時間が30分以内であれば、贅沢は言わない。というタイプだ。  私も大きな出窓が欲しいとか、ロフトがいいとか、特に希望もなく、心霊現象さえなければいいや、くらいにしか考えていなかった。  何のこだわりももたずに、《縁》だけで

吸引力の強い男

 その日、私はショッピングカートをゴロゴロ引っ張っていた。  月に2回ほど開催されるワイン2割引の日を目当てに、近所のスーパーマーケットに、買い物に来ていたのだ。  会計を終え、カートに戦利品のワインをつめていると、真横から独特な匂いが漂ってきた。  ポマードだろうか。  スーパーマーケットという場にそぐわない重たい独特な匂いに、思わず目をやる。  するとそこには、スーツをビシッと着て、頭をビタッとなでつけた若い男が、買い物を終えて袋詰めをしていた。  ほう。  何に感

白髪染めの呪い

 寄る年波、という言葉がある。  幾重にも波が寄せる様子を、年を重ねていくことに例えている言葉だ。  確かに、波打ち際の海面を見ると、目尻に刻まれた皺のようでもある。  寄せる波、返す波。  波はきちんと返ってきてくれるのに、若さというものは、そう簡単には返ってこない。筋トレ、ダイエット、化粧、整形、ありとあらゆる手を使って、押し寄せる波を自力で返すしかない。  私は体格に恵まれ過ぎていることもあって、顔に一切のやつれがない。そのお陰か、顔全体の皺は少ないような気がする。

おんなは股関節

 かつてNHKの朝の連続テレビ小説で、「おんなは度胸」という作品があった。最近つくづく思うのだが、度胸と同じくらい、股関節は大事だ。  40代も中盤になってくると、生理前後の体調不良を感じることが増えてくる。何となく調子が悪いという感覚は、積もり積もると、生活に影響が出てくるものだ。  正々堂々休んでしまうのも手なのだが、洗濯物やホコリ、髪くずを見て見ぬ振りでやり過ごすのは、なかなか忍耐力がいる。蓄積されていく家事を横目で見ていると、寝ていても気持ちがちっとも休まらない。

楽ちんの《ちん》とは何か

「楽ちんの《ちん》って何だろうね」  休日の昼下がり、夫がそんなことを言い出した。  聞いていたラジオ番組がショッピングのコーナーになり、 「これがあると、楽ちんですよ!」  そんな商品紹介をしていたらしい。  確かに、考えてみれば、 「これは楽ですよ!」  で意味は通じる。わざわざそこに《ちん》をつける必要はない。  Xなど文字制限のあるSNSが流行し、何でも略し、簡潔に伝えることが多くなっている昨今、わざわざ 「楽ですね」  で済むことを、文字数を増やしてまで 「