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「そういえば、『ムーチョ』って、スペイン語で『もっと』っていう意味らしいよ」 何が「そういえば」だったのかは忘れたが、夫にそんな話をしながら、私は鍋物をつつき、ビールを飲んでいた。他愛ない、夕飯時の夫婦の会話である。 夫は妻が唐突に披露した豆知識に、これといった返答をするでもなく、ただ一言、 「へぇ」 と言って目を輝かせていた。 思えば私は、これまでスペインと縁もゆかりもない生活をしてきた。 マドリードに行ったこともなければ、スペイン人の知り合いもいない。
私の夫はチラシが好きだ。 おそらく本人には自覚がない。しかし、パソコンでスーパーのWEBチラシを見ては、アレが安い。コレもいい、とよく騒いでいる。 夫が一番盛り上がりを見せるのは駅弁大会と、北海道、福岡などの野菜や名産品フェアのチラシが出たときである。 「おっ! 北海道産のアスパラがくるよ!」 「サッポロクラシックあるかな?」 「ジンギスカンが980円だって!」 とにかくうるさい。 それだけで、20分くらいはご機嫌に騒いでいる。 それならばと、喜び勇んで買い
その日、私達夫婦は、頭の上でタオルを回していた。 一見すると、その姿は矢沢永吉や湘南乃風のライブに熱狂するファンのようにも見えるが、ここはライブ会場ではなく、自宅の賃貸マンションの一室である。 そんな賃貸マンションのポストには、郵便物だけではなく、いろいろなチラシが投函される。我が家で一番多いのは、宅配ピザやお寿司、新築マンションなどのチラシだ。ある日、そんなカラフルなチラシの中に、自宅のプリンターで印刷したものと思われる、素朴なチラシがまぎれていた。 迷子の鳥を