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おもちょろい夫

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面白いことを、ちょろっと漏らしがちな夫が登場するエッセイです。面白いだけではなく、たまに哲学的なことも言ったりします。
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2023年6月の記事一覧

缶チューハイ3本分

 蒸し暑さのせいだろうか。  急に、中村屋のレトルトカレーが食べたくなった。  中村屋が日本でカレーを発売したのは昭和二年のこと。  箱のパッケージには《日本のカリー文化発祥の店》の文字が輝いている。  どこから見ても悪いヤツのことを、札付きの不良などというが、中村屋はどこからどう見ても老舗。まさに札付きの老舗である。  若い頃、通学の乗り換え駅が新宿だったこともあり、新宿の地下道をよく歩いた。人並みにまぎれながら進んでいくと、新宿中村屋本店の地下入り口が見える。横を通る

チラシの人

 私の夫はチラシが好きだ。  おそらく本人には自覚がない。しかし、パソコンでスーパーのWEBチラシを見ては、アレが安い。コレもいい、とよく騒いでいる。  夫が一番盛り上がりを見せるのは駅弁大会と、北海道、福岡などの野菜や名産品フェアのチラシが出たときである。 「おっ! 北海道産のアスパラがくるよ!」 「サッポロクラシックあるかな?」 「ジンギスカンが980円だって!」  とにかくうるさい。  それだけで、20分くらいはご機嫌に騒いでいる。  それならばと、喜び勇んで買い

トースト警察

 いいかげん、トースターを買った方がいいのではないか。  月に一度はそんなことを考えるのだが、未だ思い切れずにいる。  我が家はこれまで、トースターのない生活を送ってきた。夫が米どころの出身で、基本的に朝はご飯と味噌汁だからだ。  パンを焼くのは週に1度か2度。  ずっとトースターなしでやってきたのだから、このままでもいいのではないか。そう思い始めると、新たに物を買うことに、二の足を踏んでしまう。  我が家ではこれまで、パンを焼くときは、魚焼きグリルを使って凌いできた。

上げ底弁当

 「ねぇ! 聞いてよ! 酷いんだよ!」  帰宅するなり、夫が「ただいま」も言わず、プンスコ怒っている。  私と違って夫は、大概のことは平常心で受け流せる人格者なのだが、この日は洗面所で手を洗いうがいしながら 「酷い、あれは酷いよっ!」  と言い続けている。職場で理不尽な目にでも遭ったのだろうか。とても心配だ。 「何があったの?」  神妙な面持ちで訊いた。すると夫は、キッと私の方を振り向き、 「あのね! 今日食べたお弁当が、物凄く上げ底だったんだよっ!」  そう言い放っ