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花丸恵の掌編小説集

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自作の掌編小説(ショートショート)を集めました。
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2023年2月の記事一覧

ネコクインテット #毎週ショートショートnote

 「おい、何してるんだよ!」  学校近くの公園で、匠が猫を追いかけ回していた。  幼馴染の匠は変わり者だ。付き合いの長い俺は慣れているが、学校の皆はヤツの変人ぶりをまだ知らない。こんなところを誰かに見られたら大変だ。 「モーツァルトの弦楽五重奏曲を猫の声で再現したいんだ!」  匠はクラシックを愛する中一男子だ。特にモーツァルトがお気に入りで、ヤツの家に行くと、俺はいつも弦楽五重奏曲第四番を聞かされた。 「弦の音が猫の鳴き声みたいだと思った瞬間、ピーンときたんだ!」

噛ませ犬ごはん #毎週ショートショートnote

 このまま、天才の噛ませ犬になってしまうのか。  将棋界に現れた天才少年は、あっという間に七つのタイトルを獲得した。全冠制覇まであと一つ。私はそのタイトル戦で天才を迎え撃たねばならなくなった。  だが既に三連敗。もう後がない。  第四局の対局場は地方の高級旅館だった。  地元の関係者たちが、天才のタイトル奪冠を願う中、旅館の板場に勤める青年が、 「ずっと応援してます!」  人目を盗んで、私に声をかけてくれた。  今、私の目の前には豪勢な昼食が並んでいる。  世間でいう