穢された妖魔【ヴァサラ戦記ルーチェ外伝】

ここは鬼の里のあるホオズキ村に隣接しており、海の近くに集落を構えるアザレア村。

ここでは妖怪差別などなく、人と妖怪が共存して暮らしていた。
いや、共存というのは少し違うかもしれない。
一見全員が人間に見えるが、ここの女性は全員淫魔(サキュバス)なのである。

淫魔は男性の精液を好み、吸い尽くすことで若さを保つ。
それは夢の中、直接触れ合うことのどちらでもできる優れもので、淫魔達はこうして子孫を増やすのだ。

さらに特別なことに、淫魔は人間との間に子どもを身籠っても過度のストレスでもかからない限り半妖になることはない。
必ず男性淫魔(インキュバス)か淫魔になるのだ。
これだけでも淫魔という種族の子孫繁栄力を物語っているが、淫魔は5歳の段階で子を宿すことができるようになる。
その歳で結婚する淫魔もいるのだ。

「では、良き繁栄を…夢の極み『子々孫々(ししそんそん)』:夢現(ゆめうつつ)」

美しい深い青色髪の長髪、青い瞳、誰もが羨む暴力的なスタイル。
優雅に極みを放った女性の名はアリー。
この村の、いや、淫魔の女王だ。
彼女の極みは生霊を飛ばし、男性の夢枕に立たせる力、夢を自在に操る力だ。
この力で村中の淫魔の魂を違う土地の男性の夢へと派遣するのだ。

さらなる繁栄、さらなる勢力の拡大。
女王であるアリーは喜ぶべきものだが、彼女の表情は浮かない。
彼女は今、『接吻』をした相手に悩まされているのだ。
淫魔の接吻は永遠の契約を表し、それを使った男性と離れるといずれ死に至るほど衰弱してしまうリスクがある。
そのリスクを背負ってまで接吻をした相手に酷く悩まされているのだ。
アリーの右目には大きな青痣ができている。
化粧で誤魔化し、他の淫魔達には見えていないかもしれないが…


「おい、おい!」

何回も染めているのか傷んだ茶髪に、上半身裸の上から悪趣味なゼブラ柄の上着をボタンも留めずに羽織る男、ノクスはアリーを叫ぶように呼びつける。

「え…」

「え…じゃねぇよ、メシまだかよ!」

「今日は淫魔を集めて…「言い訳はいらねぇ…さっさと作れぃ!」

ノクスはアリーの鳩尾に強烈な蹴りを入れ、倒れたアリーの髪を思い切り掴んで強引に顔を上げさせる。
アリーの目からは大粒の涙がこぼれていたが、それを見たノクスは何を思い立ったのかゲスな笑みを浮かべる。

「ルーチェは部屋か?」

ルーチェとはノクスとアリーの間にできた娘で、褐色の肌に母親譲りのスタイルと美しい顔を持つ。
そんな娘に『悪戯』をするのがノクスのマイブームなのだ。
アリーはそれを止めようと何度も何度もノクスを説得するが、いつも気絶するまで殴られ、止めることができない。

「お願い、ルーチェにはもう手を出さないで!あなたの娘なのよ?」

ヒュッという音が聞こえるほどの速さでにアリーの額にコップが飛ぶ。

「かわいい女を産んだお前が悪い。いいからさっさとメシ作れ、誰のお陰で女王でいられると思ってる!」

ノクスはかつてとある街の騎士団長をつとめ、その街で妖怪差別がある村への支援を献身的に行っており、騎士団長という名誉も相まって淫魔たちの憧れの的になっていた。
女王であるアリーと結ばれたときは誰もが『お似合いだ』と称賛したほどに。

ノクスという男は女が絡むと狡猾で計算高い。
彼がしてきた献身も出世も『もっとも美しい種族』とされている淫魔。その中の女王。つまりアリーを自分のものとして手に入れるための布石だったのだ。

実際彼は過去に人間の妻、それも大層美しく優しい女性と結婚し、生まれたのが娘なら娘にもてをかけようとしていたが、産まれた子どもがノクス内面の醜さが容姿に現れたような男だとわかった途端、その子どもを毎日いじめ、妻を心労で他界させている。

さらに、特殊な宗教に魅入られていた自分の街から強引に抜け出すため『カムイ七剣』の中でも好戦的な『雷剣のライチョウ軍』にちょっかいを出し街を壊滅させ、逃げるほどだ。
この男に誰かを守ろうという気概や、悪人たる矜持は欠片もない。
目先の快楽にのみ溺れる。

そして、今のマイブームは娘に『悪戯』をすることらしい。

怒られないように恐る恐る手早く食事を作り、ノクスに差し出す。
彼は満足したのか「今日は寝る」とだけ言い残し、寝室へ向かって行った。

アリーは一人残されたリビングで必死に笑顔を作るが、涙が止まらず声を殺してすすり泣き、疲れてそのまま眠ってしまった。
眠ったのを偶然目にしたノクスはゲスな笑みを浮かべ、ルーチェの寝室へ向かう。

「ルーチェ、今日もゲームしよう♪三人目ができるかゲーム。」

ルーチェは既に二人の子どもを孕まされ、その二人とも科学都市へ売られてしまったのだ。
顔もひと目見ただけの名前すらつけてないない子どもを二人、ノクスはルーチェの了承も得ずに売り飛ばしたのだ。
ノクスにとって子どもは邪魔であり、科学都市としては実験用の妖怪を欲しているため、高く売れる。
ノクスにとっては一石二鳥なのだ。

「あ…お父さん…今日は…その…ゲームは…っていうか…もう…いや…っていうか…」

ルーチェは今にも泣きそうな瞳で訴えかける。
それに対し頭に血が登ったノクスはルーチェの口に布を詰め、叫べない状態にした上で服を脱がせる。

そして、ルーチェを縄で拘束すると、部屋から焼きごてを持ち出す。

「ん""ん""ーーっ!!」

ルーチェはされることがわかり恐怖に震えて暴れだすが、拘束が解けることなく焼きごては下腹部に押し当てられる。

「う"あ"あ"あ"あ"あ"!!!」

口に詰められた布が喉奥に入るほどルーチェは絶叫する。

絶叫虚しくその下腹部にはノクスのものであるという証の『NX』のマークが刻まれる。
ルーチェはこの家を出ることを決意するのだった。


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