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学芸美術 画家の心 第38回「棟方 志功 釈迦十大弟子 須菩提の柵 舎利弗の柵 1939年作」

なんという大胆不敵な迫力だろうか、先日東京国立近代美術館で開催されていた棟方志功展に行き、釈迦十大弟子に会ってきた。子供の頃この絵を見てその大きさと迫力に圧倒され、その場に立ちすくんだことを覚えている。いったい何に感動したのか、まったく記憶がないのだが。

今回の再会もその迫力に変わりはなかったが、圧倒される中に何故だか嬉しさも含まれていたが、しかし何をどう感じればよいのか、やはりわからなかった。

棟方志功は日本のゴッホになろうと青森から上京し、油絵を始める。だが油絵では自分の想いが表現ができないと悟り、ある切っ掛けから板画(志功は版画ではなく『いたが』と表現する)を始めた。

このころの代表作に「大和し美(うるわ)し」(志功33歳)がある。
それから3年後、二体の菩薩を含め十二体、六曲一双の屏風絵として「釈迦十大弟子」を完成させた。翌年、佐分賞を受賞する。

さらに1955年サンパウロ・ビエンナーレ展で日本人初の最高賞を受賞し、世界の棟方志功になった。

棟方の板画の魅力は、下絵なしに彫刻刀(鑿(のみ))で一気に彫り上げることにある。その荒々しい勢いからこの迫力が生まれ出てくる。彫刻刀の動きにほんの少しでも乱れがあれば作品としてはおしまいだ。

そのことについて棟方は、「私の仕事に責任を持っていません」、と言い切る。
無責任ともとれる発言だが、棟方自身は「神」もしくは「仏」に導かれ、命じるままに彫り付けた。だから、責任は神にある。

恐ろしいほどまでの自信と、仏教でいうところの究極の「他力本願」だ。

ちなみに左の仏が須(しゅ)菩提(ぼだい)で、解(げ)空(くう)第一(だいいち)といわれ、空は「色即是空(しきそくぜくう)」の空で、孫悟空は、孫「悟空」であり、空を悟る孫さんという意味である。須菩提は孫悟空の師匠で、西遊記のあの師匠のことだ。
その須菩提が空(天井)に頭を打ちたれている。それが棟方志功の須菩提の姿なのだろう。

右の仏様は、舎利(しゃり)弗(ほつ)で、知恵第一の仏だ。知恵は知識ではなく、人がヒトとして生きていくための知恵を意味しており、十大弟子の中で一番の仏様だ。

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