50センチ、メンタルディスタンス。
「あの教授、絶対動きたくないだけだよね」
いや、絶対そうだって。と、何故か楽しそうなカナコ。
切り揃えられたオン眉の下で、涙袋の浮いたカシューナッツの目が笑う。
人形みたいに黒い艶のあるショートカットから、気怠げな甘い匂いがした。
ね。絶対そうだよね。
彼女は口を開く度に、やたらと上半身を動かす。
右に、左に、四季折々の感情を奏でるみたいに。リズムを繋ぐ。
「ね?ケン、だよね?」
「まあ、そうだろね」
教室の一番後ろに座っていると、虚しいくらいにだだっ広く感じた。