見出し画像

Wicked Problem or not ?

武蔵野美術大学大学院のクリエイティブリーダーシップ特論、今回のゲストは、デザインイノベーションファームのziba tokyo 代表取締役 平田 智彦さん(現在は社名が「hyphenate(ハイフネイト)株式会社」に変更されています)。

ちなみに、zibaは米国のデザインイノベーションファームで、USBメモリを発案した濱口秀司さんが所属する企業でもあります。濱口さん曰く、イノベーションに必要なのは "Break the bias"。数年前に濱口さんの授業を受けたときからずっと頭に残っていました。

ミラノ工科大学のロベルト・ベルガンティが提唱する「意味のイノベーション」と近い考え方で、お二人に共通するのは「巷に出回っているデザイン思考ではイノベーションは生まれない」と言い切ってること!このあたりについては、また今度書こうと思います。

さて、本題に戻ります。平田さんが授業の中でお話してくれた中から、Problemと知性の3段階について紹介します。

Problemの3段階

デザインにおいて頻繁に出てくる言葉の一つが「Wicked Problem」。Wicked Problemこそが、デザインで解決すべき問題なのだと言われます。なぜならば・・・

Simple Problem:あとは実行するだけで解決する
Complex Problem:課題を定義できさえすればやり方は分かる
Wicked Problem:そもそも正解が存在しないので、取り組み自体が哲学的になる

つまり、Wicked Problemはすでに答えが見えているからですね。

Wicked Problemは、Horst RittelとMelvin Webberが1973年に発表した論文「Dilemmas in a general theory of planning」で言及されました(とても有名な論文・・・だそうです)。そこでは次のように定義づけされています。

自然科学の問題:tame problem(制御可能な問題)
プランニングの問題:wicked problem(厄介な問題)

さらに、wicked problemの特徴について、こう述べられています(Creative Researchの授業のレジュメを引用させていただきました)。

There is no definitive formulation of a wicked problem
明確に定式化できない

Wicked problems have no stopping rule
ここで終わりというものがない

Solutions to wicked problems are not true-or-false, but good-or-bad
正しいか間違っているかではなく、よいかわるいか(価値観)。自然科学だと真か偽か

There is no immediate and no ultimate test of a solution to a wicked problem
即効的な検証も、完全な検証もない

Every solution to a wicked problem is a “one-shot operation”; because there is no opportunity to learn by trial-and-error, every attempt counts significantly
すべて一回限りの解決となる

Wicked problems do not have an enumerable (or an exhaustively describable) set of potential solutions, nor is there a well-described set of permissible operations that may be incorporated into the plan.
明確な解決のリストは存在しない

Every wicked problem is essentially unique
すべての問題が固有のものである

Every wicked problem can be considered to be a symptom of another problem
すべての問題は別の問題の前兆

The existence of a discrepancy representing a wicked problem can be explained in numerous ways, The choice of explanation determines the nature of the problem‘s resolution
問題の説明が解決の方向性を左右する

The planner has no right to be wrong
プランナーは間違うことができない

Wicked Problemについてイメージが湧いたでしょうか。その後、1992年にRichard Buchananが「Wicked problems in design thinking」で「デザイナーが取り組むべき問題はwicked problemである」と述べ、世に広まって行きます。

と、また話がずれてしまいましたが・・・平田さんがおっしゃっていたのは、そもそもWicked Problem(正解はない)なのに、Complex Problem(正解がある)かのように、意見の言い合い・つぶしあいをしてしまうことがあるから、自分たちが取り組んでいるのはどんな問題なのかを認識しておく必要がある、ということでした。

そして、Wicked Problemにおいては「あなたはどういう価値を生み出したいの?」に応えられなければならない。つまり、重要なのは「意志」であるとも。

つまり、正解がない問いであるということは、誰かが答えを出すしかないんですよね。正解がないから失敗するかもしれない。だからこそ、実現するためには意志が必要である、ということだと思います。

知性の3段階

さらに平田さんは知性の3段階についても話してくださいました。知性の3段階とは・・・

環境順応型知性:周りに合わせて波に乗る力。波風の立たないようにする。
自己主導型知性:自分を信じて、目的地を決める力。
自己変容型知性:目的地のために、自らの行動を方向転換する力。

自己変容型は赤ちゃんのようなもの。このタイプがイノベーションを起こしやすいとか。環境順応型は教育型、自己主導型はメタ認知リーダー。自己主導型は自己変容型に移行する場合もあるとのこと。

Wicked problemには意志が必要という話がありましたが、まずは自分を信じて目的地を決め、ときには自らの行動を方向転換することが必要ということだと思います。

いずれにせよ、Wicked problemを解くのはたやすいことではありませんね。そう考えると、Wicked problemには「こういう価値を生み出したい」という意志だけでなく、「この問題を私が解く」という使命感も必要なのではないかなと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?