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山粧う頃|花の歳時記

季節の花をいけばなの視点を通じて、みなさまにご紹介する企画「花の歳時記」。いけばな作家の 新井 麻友さんが晩秋の花の空気をお届けします。

めっきり朝晩が冷え込むようになった最近、みなさまいかがお過ごしですか?

私はといえば、春先からSTAY HOMEを実践してきたからか、家でゆっくりと過ごす時間を持て余さなくなりました。何もしない時間に慣れたというか、罪悪感を抱かなくなったとでもいうのでしょうか。以前は休日はどこかに出掛けないと勿体ないような気がしてあちこち出歩いていたのに・・・

いつもの11月なら年末年始まで華やいだシーズンで心もワクワク、そわそわと過ごしていましたが、今年はそんな気持ちにもならず、どちらかというとゆったりと家で過ごしたいと思っています。

それでもやはりこの季節は紅葉に色付く自然をみたくなりますね。

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山粧う季節

10月の終わりから、秋らしい色づいた実物や紅葉の枝物が花屋さんに並ぶようになってきました。山がお化粧をするように色付くことから「山粧う(やまよそおう)」という季語が生まれたそう。なんとも風流な言葉ですね。

今回はそんな秋の紅葉ものを、古い三段のお重を使って花を生けたいと思います。

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器には富士山や松が描かれていて、もしかしてお正月用の器だったのかしら、と思いながら秋の生け花をいけました。器と花がミスマッチだったらごめんなさい。

年始にはこの器に水仙や千両をいけてお正月花を楽しんでみるのも良さそうです。

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紅葉した木苺の葉、1枚1枚の複雑な色合いに感動しながら鋏を入れていきます。木苺は夏の緑、秋の紅葉と楽しめる葉物で大好きなんです。

なんとなくどっしりと強そうなガーベラはボカボカという名前のもの。こちらのガーベラは偶然にも静岡の生産者さんが作ったもので、勝手に親近感が湧きます。輸送に時間がかかっていないからだと思うのですが、花がとっても元気なのが印象的です。

茎もしっかりとしているので頑固な表情にならないように。

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3つの立ち姿を並べて、小さな秋の森の出来上がりです。

時間をかけて熟すもの

もう一つの生け花は蔓梅もどき(ツルウメモドキ)を。こちらでも紅葉の葉物を使いました。先程のいけばなで使用した木苺の葉よりだいぶ小ぶりな大きさの葉が可愛らしいヒペリカムを合わせました。

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蔓梅もどきの実は、最初は黄色に色づいて次第に赤に近いオレンジに色が変化していきます。

ホトトギスの花の渋い色や雰囲気と、オレンジのリズミカルな実の対比が面白くまとまったように思います。

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紅葉の葉は色が美しいのはもちろんですが、その姿はまもなく終わる命を感じさせます。

半分乾燥して、もう終わっているのか、もう直ぐ終わるのか、そんな葉をいけるのも生け花の奥深さだと思います。

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こんなふうに実の色と反対色の青を合わせるとメリハリが出てぐっと新鮮な雰囲気に。

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蔓梅もどきはまわりの植物に絡み付いて成長する姿に勢いを感じますね。この蔓は切花でもすぐ絡まるので、他の花に絡み付いてきっと花屋泣かせの枝物でしょう。

私も花屋時代、水換えのたびにエプロンに絡まる蔓物に何度も泣かされました。

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秋の夜長、花をいけて愉しむのもおすすめの過ごし方です。

creator
新井 麻友 @mayuarai_flower
いけばな作家

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パリスタイルの生花店にて青山、六本木等のウェディング会場装飾、ディレクションを担当。
フリーランスとしてウェディングロケーションフォトのフラワー装飾に携わる。
その後いけばな小原流入門。
​現在は静岡のアトリエを拠点に教室開催、単発ワークショップ、出張レッスンも随時開催している。


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