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誰も傷つけない助け合い

新しいドラッグストアで買い物をしていた。
客はまばら。

突然お爺さんのグダグダ声と、若い女性店員の「そーなんですかー!すごーい!」と1mmも思っていなそうな甲高い声が聞こえてきた。

それが5分位続いた後、

「業務連絡、業務連絡、従業員6番作業に入ってください」
  と店内放送が流れた。
「了解しました」と何人かの従業員が出てきた。
 どうやら6番業務とは、迷惑客に対応することのようだ。

お爺さんは女性店員から離れ、レジの方へ歩きだした。
とても背が低く、杖をついていて、身なりもだらしなかった。
恐らく家族どころか、友達もいないであろう寂しい雰囲気がただよっていた。
しかも何とヘルパーらしき人が隠れぎみに付いている!

お爺さんは次にレジの女性に話し始めた。
どんどん声が大きくなり興奮しているのが伝わってきた。

内容はどこで仕入れたか怪しい蘊蓄話だ。

「業務連絡、業務連絡、短い方でお願いします」とまた店内放送が流れる。
今度は長身の男性従業員が出てきた。
短い方とは男性を指すようだ。
その男性がお爺さんの対応に入った。

「何かお探しですか?」
「何も探してないよ!俺はね君に貴重な話を教えて上げているんだよ!」
お爺さんは益々興奮して声を張り上げた。
それが15分以上。
周囲の客も心配半分面白半分で様子を伺っている。
私は欲しい商品の在庫があるか、近くの店員さんに確認してもらっていたが、いい加減お爺さんにイライラしてきた。

多分お爺さんは若い女性と話したいのだ。
女好きなだけではなく、女は自分より下で優しく気遣ってくれるだろうから。

こういう人は対等な男同士だと、嫌われたり軽く扱われたりするから苦手なのだ。
店員と客という上下関係と、ヘルパーがついたことで家来を引き連れているような勘違いで気が大きくなっているのだろう。

「ヘルパーはなにやってるの!?」とも思ったが、以前諌めた時に激怒され、でも仕事なので付いているが恥ずかしい。
そこで編み出されただろう他人か連れかわからない絶妙な距離感がヘルパーの逡巡を偲ばせる。
しかもこの二人、何も買っていない。
他人に構ってほしくて、買うものがなくてもさまよい歩く。
そして店では迷惑客だとガードされてるのも気が付かない。
なんと悲しい老後だろう。

未来の自分を晒し者にされているようで、いたたまれなかった。

私はお爺さんと従業員の間に割り込むように歩いていった。
お爺さんは歳は喰ってるが女が近づいて来たので、嬉しそうにますます声を張り上げて、
「ソーシャルディスタンス!」と従業員に言った。
満面の笑みを浮かべていた。

私「すみません。ちょっと見ていただけますか?」
従業員「はい!いいですよ。」

そしてお爺さんに「すみませんがちょっと待っていていただけますか?」と言うと、
「ああ、いいよいいよ」との返答だった。
素直に待ち続ける姿勢なので、私も従業員も「え!?(まだいる気!?)」との視線をなげた。
お爺さんは「ああ、もういいよ」とやっと帰る体勢になってくれた。

歩きながら、従業員が「何をお探しですか?」と聞いてきたので、何も考えていなかった私はしどろもどろになり
「あのー、ええっと …き、希釈するタイプのコーヒーとかって有りますか?」と聞いた。
「ございますよ。ご案内しますね。」と案内してもらってカゴに入れた。

その後レジに行くと、お爺さんは帰っていてホッとした。
あのまま居座れば、お爺さんはあちこちで「業務妨害、出入り禁止」を言い渡され、行き場を失ってしまうだろう。

だから、今のうちに少しでも気がついてくれたらいいな。

そして今回私がやった「誰も傷つけない助け合い」を店内で見ていた人が、
「そういう方法もあるのか!」とどこかで誰かを助けてくれたらいいな。
と切に願う。

人間は誰もがいつかは一人で生きていけなくなってしまうのだから。

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