インドはそのためにあるような国です

(アントニオ・タブッキ著、須賀敦子訳/インド夜想曲)

遠いインドという国の魅力、魔力にひたひたと浸れるような一冊。それを須賀さんの訳で読める幸せ。こんな作品を一つでも手掛けられたら一生の宝物になるだろうな。


「インドで失踪する人はたくさんいます。インドはそのためにあるような国です」


ボンベイの水は飲まないほうがいい。しかし、タージ・マハルなら大丈夫だ。自前の浄水機を持っていて、水が自慢なのだ。タージはただのホテルではない。八〇〇室を擁する、都市のなかの都市だ。


そして、もう一本たばこを巻くと、それをふたつに割って、半分を僕にくれてから、たずねた。「なんできみはこんなところに来たんだい」
「シャヴィエルという人間を探してる。ひょっとしたら、この辺に立ち寄ったかもしれないと思って」
トミーは首を横にふった。「だが、そいつは見つかりたいと思ってるのか」


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