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【映画感想】くれなずめばいいと思うよ。

映画『くれなずめ』を観てきた。
実は、成田凌くんの主演作だから、そして藤原季節くんが出ているから、と役者目当てという理由で観に行くことをだいぶ前から決めていたので、予告編もさらっとしか確認せずに劇場へ行ってきました。
(公開初日だったっけ?成田くんと松居監督の通信環境激悪インスタライブはちらっと観たw)

結果、敢えてしっかり前情報入れていかなくて正解だったと思っています。
溢れる思いをどう言葉にしようか迷いながら、音声では既に感想の配信をしました。

音声配信したものをまとめつつ、12分の尺に入りきらなかった感想をここでは残しておこうと思います。

映画『くれなずめ』とは

2021年5月12日に公開された、松居大悟監督による日本映画。
当初は4月29日公開予定だったものが新型コロナウイルス感染拡大の状況に伴い延期…と、GW公開をあきらめた直後、5月10日に突然、翌々日にあたる12日からの公開が発表された。

配給が東京テアトルで、しかも公開館がかなり少なく、元々私の住む県では公開予定がありませんでした。テアトル系といえば今年観た「花束みたいな恋をした」もテアトル系だったけど、悲しいかな公開規模が違ったんだな…。
隣の県に行けば観られそうだけど…と思いつつ、コロナ禍では諦めるしかないかと考えていたところ、どうやら公開日が変わったタイミングで上映館が一部変わった様子。我が地元でも無事公開されました。
ありがとうTO〇Oシネ〇ズ。なぜ伏せ字にした私。

「アフロ田中」や「劇場版バイプレイヤーズ」の監督を手掛けた松居大悟監督が、自身の実体験を基にしたオリジナル舞台劇の映画化。
大まかなストーリーとしては、友人の結婚披露宴で余興をするために5年ぶりに集まった、高校時代につるんでいた6人の仲間が主人公たち。彼らは高校時代に学園祭でやったのと同じ芸「赤フンダンス」を披露し、結果ダダ滑りする。その後の二次会までの空いた時間で彼らは昔の思い出を振り返るが、短くも長いその時間で彼らが思ったこととは…という流れ。

男子ってこんな感じだよねと思わせるリアル

この映画に出てくる6人は、みんな学生時代パッとしない立ち位置で、いわば地味でイケてないグループ。
スクールカースト上位の人間を前に委縮したりする。

そんな奴らでも6人集まれば、昔の内輪ノリでぎゃーぎゃー騒いでみたり、冗談言ってへらへらしてみたり。
そういうのって何年経っても男は男子なんだなぁって妙なリアルを感じた。
女の子だって割とそういう所あるよね。私も学生時代バカやってた友達と集まったらそうノリは変わらない気がする。でもやっぱり女子と男子って根本的な部分が違うんじゃないかなって思う部分もあって、男子っていいなって思う所もたくさんあった。
6人組のうち3人だけでお泊りしているときにぽろっと本音を言ったりしてね。あのシーンめちゃくちゃ好きだ。かわいい。

ただ、この6人の高校時代から12年の時を超えた再びの青春には、何かが違う、どこか欠けたところがある。懐かしさやそれに付随する切なさではなくて、なぜか大きく感じる喪失感。その原点は「吉尾の死」にある。

冒頭から匂わせ続けられていた「吉尾の死」

「吉尾が死んでいる」という展開に関しては、一応予告編でも匂わせてあるので、ここはネタバレではないということでご容赦いただきたい。

・余興のリハーサルのために6人が結婚式場でウエディングプランナーと一緒に打ち合わせをしているシーンで、観客からはどう見ても6人居るのに、プランナーが5人と言う。
・6人のうち吉尾だけが「老けた」と言われず「お前は変わらないなー」という扱いを受ける。
・みんながカラオケでばてていても、吉尾だけがひとり元気。
・吉尾が「俺ってもしかして死んで…?」と言うとほかの5人がわー!!って言って誤魔化す。
・吉尾のケータイだけが懐かしの二つ折りガラケー。

冒頭だいたい15分くらいでこれだけのシーンを使って、あれ?もしかして?と吉尾の死を匂わせてくる。

劇中での伏線回収の仕方あれこれ

そんな「吉尾の死の匂わせ」を、6人が二次会までに時間をつぶせる場所を探してぐだぐだと街を歩く間に挟まれる、吉尾以外の5人による吉尾との思い出を振り返る回想シーンで回収していく。

12年前、6年前、2年前…と次第に時間軸が現在に近付いていくにつれて、元々は高校で一緒にバカなことばかりしてつるんでいたことしかわからなかった「吉尾」像が、6人全員との思い出を通して形を帯びてくる。
そして、その形がはっきり見えた時、私たちは吉尾が死んでいるという事実を突きつけられるのだ。

この映画で回収してくる伏線は、「吉尾が死んだ」という事実に絡むことだけではない。
アラサー男性の発言としてはちょっと恥ずかしいギャグや、名言っぽく放たれた中身のないバカな発言。街で見かけた怒られているバイト。そんな日常の端々と似たことが過去に起こっていたことを回想シーンで回収していくことによって、「吉尾が存在した」という事実を見せつけられている気持ちになった。

非現実的な超展開は舞台的演出と思っておこう

ある回想シーンを境に、5人の前からふっと吉尾が消える。あんなに当たり前に6人で歩いていたのに、突然いなくなる。なんでだ?と思っていたら、そこから謎の展開が訪れる。

私は正直「このシーンなに?」という気持ちになったし、きっと同じスクリーンで観ていた多くの観客の頭の上にクエスチョンマークが浮かんでいたと思う。心臓自ら取り出すって何。ポケットから心臓ってなに。ポケットからキュンです以上に意味わからんぞ。

あまりに非現実的な超展開が訪れて、そのシーンが進んでも一向に意味が分からずにぽかんとしてしまったんだけど、あれはもともとこの「くれなずめ」という作品が舞台だったということを考慮すると、アリなのかな…?と思った。
何だかちょっと演者さんたちも舞台的な演技に見えたっていうのもあるし、そのシーンの成田くんのビジュアルがそうさせたっていうのもあるし。

ここはネタバレせずに書くのは本当に難しいなと思ったので、気になる人は是非本編を観て欲しい。地味に、高校時代の打ち上げで行ったカラオケシーンから、吉尾のギャグと、遠くから聴こえてきていたアメイジンググレイスを回収しているのが個人的にツボ。なんでわけわかんないシーンなのにちょっと感動的な使い方するんだよ。

キャストが最高過ぎたのよ

今更だけど本当にキャストが最高。優勝。完全勝利。

私が目当てにしていた成田凌くんと藤原季節くんは勿論、若葉竜也くん、高良健吾くん、浜野謙太さん、目次立樹さん、みんな芸達者で全員最高。この6人だからこそくれなずめた。賑々しい「男子」の空気をメインキャストの6人は本当に素敵に演じたと思う。誰がどう違ってもくれなずめなかったんじゃないかと思うほどには、本編を観終わった直後、私は6人に夢中だった。あの6人は私の青春の中に居たんじゃないかと錯覚するほどに。

6人以外の登場人物では、吉尾の高校時代の同級生で吉尾の片思いの相手ミキエを演じた前田敦子さんが本当に良かった。あっちゃんにあの役をやらせたの天才でしかない。ミキエの存在があるからこそ、6人の冴えない高校時代がさらにリアルだった。
予告編にもあるけど、吉尾に幸せになれよって言われて怒って走って戻ってくるミキエ最高。友達になりたい。

バイプレイヤーたちが更にずるい程最高

そのほかにも飯豊まりえちゃん、内田理央ちゃん、城田優くん、近藤芳正さん、岩松了さんなど、ちょっとしか出てこないバイプレイヤーも豪華で贅沢。
スクールカースト上位の城田くんとかリアルみがすごい。ビジュアルも神がかってた。どっこいしょーどっこいしょーされたビール飲んじゃうシーンは盛大に笑っちゃったけど、城田くんのファンは怒るかもしれないな。
岩松了さんと藤原季節くんのシーンが、私としてはこの作品中のベストアクト。季節くんの鬼気迫る演技と、岩松了さんの飄々とした感じ。静と動を感じるとともに、お2人ともさすがだなと思った。切なさもありつつ、すごく好きなシーン。

そして私が一番大好きなのは、滝藤賢一さんが出てくるシーン。あれはずるいし、このシーンに一緒に出てくる作中のダンスの振り付けも務めたパパイヤ鈴木さんはもっとずるい。
滝藤さんの配役は公式サイト観たらちょっとだけネタバレしてるのかな?声だけで笑ってたところに滝藤さんのビジュアルが来て、更に追いかけるようにやってくるパパイヤ鈴木さん、っていう笑いの連鎖を是非体感していただきたい。

音楽使いに感じるエモさ

主題歌「ゾウはネズミ色」、そして劇中で赤フンダンスの曲として何度も登場する「それが答えだ!」といえばウルフルズ。要所要所で聴こえるトータス松本の声がエモいことエモいこと。それが答えだの「それ」ってなんなんだよ!って、私も吉尾と同じことを思っていたよ。

冒頭みんなでカラオケで大合唱するのが太陽族の「誇り」だったり、スピッツの「運命の人」の歌詞が出てきたり。主人公たちはアラサーだけど、実際もう少し上の人たちにガツンと来る音楽が使われていたんじゃないだろうか。正直30代ど真ん中の私にはドンピシャだった。
どうしても成田くんの年齢で主人公たちの年齢を想像していたから、ちょっと選曲古くない?と思っていたら、どうやら松居監督は私と同い年らしい。納得。太陽族とかマジで青春だよね。

常々「映画のエンドロールで立つ人とは仲良くなれない」と豪語している私だけど、この映画はエンドロールの途中で立った人を引き留めたくなった。
エンドロール後で追加の映像があるわけじゃない。でも、途中で帰っちゃったら最大のエモを聞き逃してしまうよ。そこでそれはずるいだろ、トータス松本。もしやそれが答えなのか。

結論:良すぎた

映画「くれなずめ」、本当に良かった。たった96分の映画で大満足だったのは、やはり大筋がいいから。
吉尾の死を5人が受け止めていけたのは、やっぱり6人が本当に大切な友達だったからなんだろうな。あのバカやって一緒に笑ってくだらない日々を一緒に過ごした仲間たちが、これから先も簡単に会えて、またなって言えるのは決して当たり前じゃないんだね。

この映画のタイトル「くれなずめ」は、日が暮れそうで暮れない様子を表す“暮れなずむ”を変化させて命令形にした造語で、「前に進もうとも様々な障害が立ちはだかったままで思い通りに進めない」という意味合いとして使ったと松居監督は言っていたけれど、昼でも夜でもない時間が人生にはあったっていい。思い出す時間があったっていい。

引きずることから逃げるなよ。

だからなんだよ、生きるだけだよ。

劇中のこの二つのセリフと、エンドロールの「Special Thanks いつかまた会える友達に」が私は心に深く刺さった。
あと、死んだ人間を美化しすぎることって結構あるんじゃないかな。そう思うとふと若くして亡くなってしまった同級生の姿が思い浮かんだりして。死に限らずそもそも昔の記憶って、自分の中て結構良いように書き換えるよねと思いつつも、たまにはくれなずむことも必要かもしれない。こういうことを映画を見てからちょくちょく考える私、くれなずんでんなぁ。

あとね、赤フンダンスよりこっぴどい余興、もっとあるって。気を落とすな6人組よ。

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