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おはなし小話物語集

7
徒然なるままに お話づくり
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舞夜物語 vol.7

舞夜物語 vol.7

七福神の酒席数年前の秋のこと

ふと思い立ち信貴山へ夕方向かった

丁度日暮れ前 黄金色に揺れる大銀杏に圧倒され

ただただ見上げるばかり

ふと帰路に向かおうと足下一面に続く黄葉の絨毯

特別な気分に浸る足取り

駐車場へ向かう途中の休憩所の木造の佇まいについつい引き寄せられるまま その戸の内部にある

其処彼処の今では用済み扱いの古い看板や建具

装飾品の数々に妙におっかなくも好奇心が勝って

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舞夜物語 vol.6

舞夜物語 vol.6

たとえば 気配について

冬の朝 透明感の漂う白い朝
薄陽射す しずかな始まり

たとえば

ふと何かと感じて見やった先には

季節の変化に 
いつもの時間の筈とハッとする

陽の入り方が変わった窓辺では
余りにもの 急ぎ足 勇み足に
マッタマッタと
すこしはひと息おつきなさいと
美しき日常の景色が
大切ななにかをそっと知らせる

或るときは

微睡の記憶の波が押し寄せては
時折 硝子を震わし

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舞夜物語 vol.5

舞夜物語 vol.5

17:30から18:15まで
タケオ君は橋の欄干に立つ

待ち合わせなのか
何か目的があるのか
誰かこの習慣に気づいたり
いつもの人 と認識しているのだろうか

はたまた忠犬ハチ公の人間版か

幾らなんでももう5年と8ヶ月も続いていれば
声を掛けてくる人や色々噂にもなるもんだろう

春や秋の比較的過ごしやすい頃ならいざ知らず
雨の日も酷暑の時分も、極寒の今でなら
只ならぬ決意が有るのだろうかと

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舞夜物語 vol.4

舞夜物語 vol.4

銀は
ススキ野原を駆けていました

時折 
青鷺と白鷺がピクリと反応し
青鷺は川面を
川上にステップしながら
2軒先ほど飛び立ちました

たったったったッとひたすら
駆け抜けて行きます

銀は 夕陽が落ちる前に
必ずこの野原で独り武術を特訓しています

今は ススキの背が丁度良く
50ほど束ねては
居合の稽古に集中します

秋風がザザザッと脇立ち
鞘からスッと抜き出た刃が
キラリと光り
銀と共に鋭

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舞夜物語 vol.3

舞夜物語 vol.3

ジョセフ: やぁ。ウォーリー!散歩かい?

ウォーリー:ま、そんなトコさ。で君は随分急ぎ足のようだが、一体何を急いでいるんだい?それに、ステディでインテリなキミがボクに声を掛けてくれるなんて。照れちまうよ。

ジョセフ:ええッステディ?そうかい?確かにあまり声を掛けるタイプに見えないのかもな。しかし奇遇だなぁ 丁度 ひとりじゃやるせない気分だったんだけど ウォーリーを見かけて心が弾んだんだよ!

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舞夜物語 vol.2

舞夜物語 vol.2

いつも短縮時間割りを終えると
無我夢中で学校を一番に飛び出してしまう
美園ちゃんには、秘密の場所があるようです

12時21分には
2町先の四つ角の脇の
土塀沿いを駆け抜け
次に
竹藪を15秒で突き抜け

65cm幅の溝を8mかけあがり
トタンで出来た小屋を
3回ノックしてから裏手に廻り
低く小さな小屋の扉が
3つ並んでいるので
耳を済ませて 
秋風の音がする扉をひとつ選んで中へ入ると

お昼の筈

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舞夜物語 vol.1

舞夜物語 vol.1

3月に一度は
玄兎が地上に舞い降りるのは ご存知だろうか

羊使いのフェリは 玄兎とは知らずして
夜の草原に 光り輝く少年を見かけたけど
夜風が頬をかすめると すっかり幻のように
少年の姿が見えなくなったことには気づきもしなかった

フェリは 昼間に滑落した牧羊犬のジフの怪我を悔い、独り夜風に話しかけていた

ジフって相棒は おいらと同じ誕生日なんだ
ジフの父さんと母さんは 山3つ向こうの湖畔の街

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