舞夜物語 vol.2
いつも短縮時間割りを終えると
無我夢中で学校を一番に飛び出してしまう
美園ちゃんには、秘密の場所があるようです
12時21分には
2町先の四つ角の脇の
土塀沿いを駆け抜け
次に
竹藪を15秒で突き抜け
65cm幅の溝を8mかけあがり
トタンで出来た小屋を
3回ノックしてから裏手に廻り
低く小さな小屋の扉が
3つ並んでいるので
耳を済ませて
秋風の音がする扉をひとつ選んで中へ入ると
お昼の筈なのに
夕焼けに染まる
一面のコスモス畑が
広がっていました
何しろ12時32分には
この扉の中に
入らなければならなかったのですが
今回は
12時31分42秒で
前回より2秒早く着いたのでした
呼吸を整え 耳を澄ませると
5輪だけの
ストローコスモスが
スピーカーとなって
花びらから
二胡が奏でる音色に似た
切ないセレナーデが聴こえてきました
美園ちゃんは 音色に合わせ
踊り舞いながら 時折キリリとした表情で
指先を天に突き上げるタイミングは
思わず息を呑みこむ瞬間です
天から舞い降りてくる
虹色のクモの糸を
指先に繋げると
美園ちゃんは
指編みを始め12反織り上げました
反物が羽衣となり
ふわりとカラダが舞い上がり
空高くコスモス畑を浮遊し始めたのです。
夢見心地の空中散歩
お月様に右手が
沈みゆくお天道様に左手が向かうと
くるりくるりと
ゆっくり回転し始めたのです
逆回転をして地上に静かに着地しました
すると12反の虹色の織物は絨毯のように、
目の前に路のように広がり
布先が天に続く螺旋階段になりました
すると
背中側の先ほど入ってきた
扉が開きました
ひとりふたりと入ってきました
脇目も振らず
織物絨毯を歩き天へ登って行きます
♪天上天下みな同じ
慈しみの華開く〜♪
と唄いながら
各々祈りを込めて進んでいます
しばらく時間を忘れて眺めていると
反物がくるくると巻き始めました
目の前が静かなコスモス畑のみに戻ったことに
我を取り戻すと 美園ちゃんは
きた道筋を戻り家路につきました
身体中が軽やかになり
複雑に考え過ぎず
なんだかスッキリした
美園ちゃんでした
なぜ12時32分に
この場所を訪れる衝動に
駆られるのかは
美園ちゃんには全くわかりません
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