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文学碑や史跡の逍遥録

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文学碑や史跡の逍遥録
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前田夕暮先生の詩碑 -横須賀市-  そして花子出版の新しい試み。

こんにちは。 日本には多くの詩碑、歌碑、文学碑が残されています。多くを巡り、作中の世界を堪能できれば、と思っています。今年に買った、スーパーカブも僕の文学碑巡りの友となってきました。スーパーカブが望んでいるかは、分かりませんが。もしかすると、もっと過酷な山道を求めているのかも。 さて、先日に前田夕暮先生の詩碑を見に行きました。 相模湾から富士を眺望できる、横須賀市の富浦公園にあります。 宵あさき長井往還行きにつつ 村湯の明りなつかしみけり 詩人である北原 白秋先生と

めだかの学校  横須賀

こんにちは。 童謡は、一度聴きますと一生涯口遊むことができる名歌です。 先日、横須賀で散歩をしていますと、童碑を見つけました。 『めだかの学校』の童碑です。 作詞をされた茶木滋先生が横須賀生まれとのことで、横須賀の三笠公園入り口にあります。三笠公園内には、厳格な世界観を生み出す記念艦の「三笠」があり、そのような公園の入り口にひっそりと姿を隠す童碑は、中々秀逸です。  昭和二十一年の春、茶木滋親子は小田原郊外の小川のほとりを歩いていました。幼い義夫くんが突然声をあげま

この一歩を踏み出せるのだろうか   城山三郎先生の文学碑 滋賀県

こんにちは。 朝晩の涼しさが増し、夏が終わろうとしています。 小学生の頃、夏休みの終わりが近づき、憂鬱と新学期の希望が混じり合い、複雑な気分で過ごしていました。 小学生の夏休みは人生の中で特に印象深く、自然の中でさまざまな欠片を拾い集めていました。それはクワガタムシやカブトムシなどの有形なものであり、感性や情緒などの無形なものでありました。 数回ほどの登校日があり、その中で戦争をモチーフにしたアニメを見ました。世界で起こる紛争も何も知らない僕にとって、とても恐ろしいもの

『絹と明察』と文学碑  三島由紀夫先生 滋賀県

こんにちは。 『終戦の時は、わたくしは終戦の詔勅を親戚の家で聞きました・・・』。 とのインタビューで答えられた、三島由紀夫先生の声が聞こえてきそうな濃い夏の匂いが香る季節、皆様はいかがお過ごしでしょうか。 僕は執筆中の小説が佳境を迎え、家族の諸事情も終わりまして、セミの鳴き声に耳を欹てることができる余裕が増えました。文学碑のメモを更新いたします。 日本一大きな湖である琵琶湖、地図を見ますと日本の中心にぽっかりと穴が空いているように思えます。 京都から湖西線の電車に乗り

幻想文学の先駆者、泉鏡花先生の文学碑へ  -若菜のうち-

こんにちは。 久しぶりの文学碑巡りの更新になります。 泉鏡花先生。先生は明治後期から昭和初期にかけて活躍された小説家です。幻想文学の先駆者としての評価もされています。 大崩壊の巌の膚は、 春は紫に、夏は緑、 秋紅に、冬は黄に、 藤を編み、蔦を絡い、 鼓子花も咲き、 竜胆も咲き、 尾花が靡けば月も射す。 映画にもなっています草迷宮の一節。草迷宮は先生が逗子の仮住まいで執筆された小説です。相模湾を眺望できる公園の一角に文学碑があります。 以下、リンク。 単語単語の威厳

何かと注文が多い時代だからこそ、読みたい一冊。

こんにちは。 先日から岩手の記事を投稿していますが、五感に焼きついた、もしくは焼きつかれた岩手は、まだまだ醒めないものです。忘れものをしたわけではありませんが、何かを置いてきたような感覚。見つけにいかなくては。 宮沢賢治先生の『注文の多い料理店』は有名な作品です。僕も小学校のころに読んだ記憶があります。名作なのですが、出版に至るまでのドラマも相当なものがあったようです。 光原社を訪れた際、一枚の紙をいただき、『注文の多い料理店』が出版に至るまでのドラマを知ることが出来ま

盛岡にある、石川啄木先生の史跡を巡って。

こんにちは。 ふるさとの山に向かひて言うことなし  ふるさとの山はありがたきかな この有名な、程よい耳触りの詩。石川啄木先生の詩になります。先日、盛岡にお邪魔した際、石川啄木先生のゆかりの地も回りました。 岩手の文学碑の多いこと、多いこと。調べずに歩いていましても、ふとした時に出逢います。 商店街にて。『北風に立つ少年啄木像』 〒020-0022 岩手県盛岡市大通2丁目7−28 昔この辺りは不来方城菜園の跡地である。 中学生の頃の啄木にとって、この畦道と城址は詩情の

銀河鉄道に乗って。   宮沢賢治先生と岩手について。

こんにちは。 雨にも負けず、風にも負けず・・・、で有名な宮沢賢治先生。 子供の頃から馴染みのある先生について、もっと理解を深めねばと思い、予定を立て、岩手県へ。 東北新幹線に揺られ、道中に銀河鉄道の夜を読みました。電車の無機質な空間が、一変に彩られ、車窓に銀河が浮かぶほどの描写の美しさ。名作中の名作です。 盛岡に着くと、あいにくの雨でした。風が強く、滴る雨にて靴が濡れてしまいましたが、心地よい気分です。 さて、街を歩きますと、色々な場所に宮沢賢治先生の名残があります。

伊豆で見つけた文豪方の繋がり

こんにちは。 伊豆から帰り、桃源郷から現代に足を踏み込んでしまった少年のような気持ちで、齷齪する時の流れを感じております。いつのまにか新年度が始まり、桜吹雪の下をドキドキしながら歩いている頃でしょう。 さて、伊豆は多くの文学者が訪れました。静養のためであり、療養のためであり・・・。気候が穏やかで、空気が綺麗で、食べ物も美味しく、水が清澄で、と上げ始めるとキリがありませんが、とても良いところです。文学者が訪れる由縁を景色を眺めているだけで感じることが出来ます。 大阪生まれ

汽車の窓をこじ開け、『みかん』を投げてみた・・・?               芥川龍之介先生 横須賀

こんにちは。 動画配信者のような釣りタイトルですみません。何となく、使ってみたくなりました。動画配信はアクセス数が金になりますので、必死こいてタイトル付けする気持ちは分からんでもありません。 タイトルは、芥川龍之介先生の短編小説の『蜜柑』の一部分です。勿論、一部分ですので、小説はもっともっと深淵で、味わい深い短編小説です。 あらすじ。 横須賀発の二等者の列車に乗る主人公。主人公の前に、三等車の切符を持つ小娘が入ってきます。主人公は小娘の身なりや態度を好まなかった。 列

そこの君、名を聞こう             長谷川伸先生  横浜

『どこの誰だ!!!  文豪の一子相伝者であると身勝手に思い込み、資本主義の基本である経済活動を最低限のものでおくりながら読書と執筆に時間を割き、ヘンテコな文章と物語を積み上げてnoteのサーバーに負荷を掛ける、傍迷惑な奴は!!! おい、名を聞こう!!!』 『花子出版の倉岡だ!!!』 ・・・。 と、軽快な書き出しで、ちょっとした小話を入れてみました。なぜ、下らない小話を入れたかは、後ほど。 さて、こんにちは。 三月になり、汗ばむ陽気の日が増え始め、梢で眠る新緑や、土の中

文学碑ガール  最終章(全3章) 短編小説

最終章  旅館へ帰った川崎と秋山は、座卓を挟み畳の上に寝っ転がり、川端康成の小説を眺めた。古色を帯びる旅館の壁色と、文庫本の紙色がいつしか同化し、壁や天井に文字が浮かんでいるようだった。  日が傾き始め、障子越しに夕日が差し込み始めた。 「夕飯が楽しみやなあ。美味しい刺身を食べたい」 「うん。けれど、三木さんとドライブに行くから、酒は飲めないよ」 「なあ。三木さんとのドライブは、川崎が独りで行ったほうがええやろ。俺は邪魔な気がするわ」  秋山は本をパタリと閉じ、起

文学碑ガール  第2章(全3章) 短編小説

第2章  清澄な黎明が中伊豆に降り立った。相変わらず川の水音は激しく鳴り響き、枯渇を知らないようだ。旅館へ朝日が降り注ぎ、障子にて柔和にされた光が、川崎と秋山の頬を優しく撫でた。会話に会話を重ねた二人は布団を蹴散らし、浴衣が乱れ、新緑と同じように若さを解放していた。 「おはよう」  同時に目覚めた二人は、瞼を擦りながら背中を起こし、枯れた声で挨拶を交わした。 「二日酔いや。川崎は大丈夫?」 「ああ、僕は元気だ」 「流石。根っからの酒豪やな」 「子供の頃から常に酒

文学碑ガール  第1章(全3章) 短編小説

第1章  墨を降らせたように地は暗く、光の泡沫を散りばめたように天は明るい。川崎は都内で借りたレンタカーのエンジンを止めてヘッドライトを落とし、背伸びをした。数時間のドライブにて疲弊した背骨が鳴った。隣には、同じ学部の秋山がシートを寝かせて、リズムの狂った鼾を奏でていた。 「秋山、着いたよ。起きろよ」  川崎は秋山の肩を揺すった。 「お。もう着いたのか」  とぼけた声を出す秋山は、瞼を数回こすった。 「バカ。秋山はずっと寝ていただろう」 「悪い、悪い。帰りは俺が