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ろろこちゃん

あの日、ルールを破ってあっちの世界に行った私は、もしかしてこのルールを破ったら地獄行きなのかも知れないと考えていた こちらの世界の戻る事が怖くなってしまったがずっとこんなところに座っていたら大嫌いなクラスメイトに会ってしまうかも知れない(向こうは私を認識できないから会うっていうのは違った 私の目にクラスの奴らが映るかも知れない事が嫌だった)そんな事になったら自殺した意味がない 自分に二,三回言い聞かせて重い半透明の腰を持ち上げて、扉に向かった

心配の必要はなかった 扉をくぐって帰ってくると白装束の女の人がめんどくさそうな表情で 何もできなかったし何も変える事なんて出来なかったでしょう、向こうへ行っても虚しくなるだけだからやめなさい、と言いながら私の前に歩いてきた どうやらこのルールは死んだ者が傷つかないように、という意味で存在しているらしい 破ったからと言って何かの罰があるわけではないらしい 

みんなはやっぱりぼーっとしていて、座っていたり寝そべっている人が多い 時折、泣き声が聞こえた 泣き声のする方へ視線を動かそうとしたが恐くなってやめた それを見てしまったたら、私はこっちに来た自分を責めてしまいそうになる気がしたからだ もしかして生きていたらなんか一個でもいいことがあったんじゃないかなって、今更どうしようもない希望が私の目を刺してしまうんじゃないかって指の先をこわばらせていた 落ち着かなくなってしまい私もみんなと同じように寝転んでみた 出来るだけ身体をぎゅっと小さくさせて、顎と胸を隠すように膝を曲げ、髪の毛で顔を覆って、寝転んだ 暗いと落ち着く 昔からだ それも自分の髪の毛の暗闇が一番落ち着く 別段さらさらという訳でもないし何なら枝毛だってあるダメージヘア この髪が私を私以外の面倒なものから遠ざけてくれた 世界で一番しなやかな壁だ

どれくらい時間がたったのか分からない、別に時間に興味もないけれど時計やカレンダーや時間の感覚がない状況は慣れていなくてそわそわした 泣き声は今も聞こえるさっきよりは遠い まだ寝転んでてもいい、けど


やっぱりひとりでいる方が気分がいい 隣にいるりすの遊具にかわいいねと声をかけてみた 遊び相手の子供を待つようにじっと遠くを見つめているりす 私はうさぎを選らんだ りすと違ってうさぎは寂しいと死んでしまうからというかわいい理由で  最初は砂場で遊んでいた、砂や汚れは私の身体につかなかったしもちろん遊具の汚れもつかないだろう りすもうさぎも塗装が剥げてあまりきれいじゃない 生きてるうちだったらスカートに汚れが付くのを気にして座れなかっただろう 私がいる場所からは元気な子供が見える 子供たちは幽霊がすぐそばにいる事も気づかずに、たった二つしかないブランコの取り合いで忙しい 背の高い子低い子男の子女の子五、六人が何か言い争ってる
一番にブランコの取り合いの団子の中から弾き出された背の高いくせっ毛の女の子と目が合った気がした

きっと気のせいなんだけど

女の子はこちらを睨むようにしてずんずん進んでくるとうさぎの遊具とりすの遊具の間で立ち止まった 顎先に余計な肉が無くてまつげも長くふわふわしていて横顔が綺麗だ ブランコの取り合いにくせっ毛をからかわれていたが 細身の身体とすっきりとした顔の輪郭とのアンバランスさがかわいい

少し泣いている

幽霊の身なのであなたは素敵だよ、と声をかける事が出来ない からかった子に呪いもかけれないしブランコを操ってビビらせる事も出来ない 私はへっぽこな幽霊だ、というか私、生きているうちにこんな場面に出くわしても絶対何も出来なかった 幽霊である今の私がへっぽこな訳ではなく私はただただ他人への優しさも度胸も無い私がへっぽこな人間だった 私は、女の子の耳には届かないだろうと思いながらも出来るだけ大きくゆっくり あなたは 綺麗だよ と言った
女の子は変わらず肩が小さく震えてる

柔らかいふわふわのわたあめみたいな黒髪を撫でた 半透明の私の手が柔らかい黒に染まる 女の子は泣いている 黒色は悲しい震え方で私の中にとどまる

しばらくすると背の低い一人の女の子が走り寄りわたあめの黒髪を持つ女の子の手を引っ張った 私の手からわたあめはなくなった

けんけんぱを楽しそうに始めたあの子の黒髪が楽しそうにはしゃいでる

私のこのさえない枝毛ばかりの髪の毛が楽しそうに揺れていた事はあったっけ私は向こうの空が透けて見える髪の毛を見つめながら つぶやいた もうすぐこっちは夕焼けが始まる