ふ

ろろこちゃん

自殺したあの日は お気に入りのワンピースを着た 最期に制服姿なんてダサいと考えていたから家に帰って即・着替えた セーラー服なら物語性があるしかわいいかったと思うけど、私の通う学校はセーラーでもないしシャツにネクタイのギャルちゃんぽい制服でもなくただただダサい制服だった この世の全ての「ダサい」を詰め込んでパンクさせたような制服 中途半端な丸えり、胸元は奇妙な形をした汚い枯葉色のチェック模様のリボンタイ(しかもスナップボタンで止めるタイプ)、トイレの花子さんよろしくつりスカート(ひもが馬鹿みたいに細いし、胸が大きくなるとひもがまっすぐならないため屈辱的)、許されるのは白い靴下に白い運動靴 こんな無様な格好で死を迎える事が出来るのだろうか、いやできない だから私はこの日のために前日念入りにアイロンをかけた、たっぷりのパフスリーブがロマンチックな気分にしてくれるワンピースを着て自殺した 出来る事ならあの世でもこれが着たい…お気に入りのワンピースを着たおかげか安らかな気持ちだった

残念ながらあの世ではあのワンピースを着る事が出来なかったし、代わりの真っ白いお着物もなかった

どうせ誰も見る事が出来ないそんな存在なんだから、別にいいでしょと白装束姿の年配の女の人に軽くあしらわれてしまった 自殺してこっちに来た私のような人の応対をする係の人らしい、忙しそうにしてなんだか恐い でも、あなたはそれを着てますよね、と言ったが 耳が遠いらしく私の声は拾わなかった 女の人は別の人にさっき私にしたような話を始めている 生まれ変わりは特にないから期待をするな、他人に呪いをかけれないから復讐なんて考えるな、むやみやたら元の世界に行くな、この話が主だった 来世は最高にパンクなガールズバンドを結成したかった私の思いはあっさりと消え、意地悪をしてきた同級生たちに対する昭和のホラー漫画のようなえげつない復讐のシナリオも無駄になった ここでずううっと過ごさなきゃいけないのか…周りを見渡すと年寄りも、同い年の子もいた 一部の人を除いて大抵の人は服を着ていないし、なんだかぼーっとしている 裸ってことに気づいてないのかどうでもいいのか…めちゃくちゃに恥ずかしそうにしてる人はいなかった、私を除いて。 あっちの世界なら私の姿を誰にも認識されないから恥ずかしくないな、と思い私はさっきのおばあさんに軽くお辞儀をして扉に向かった 多分お辞儀に気づいてないけどどうでもいい 駆け足で進んだ そういえば死んでるのに足はあるんだ…と今更どうでもいいことに気づき扉を押した

家の近くのお気に入りの場所に来た

私は雑草が小さく揺れているのを眺めて、雲が進むのを眺めて、近くの小学校のチャイムを聞いて、階段に座っていた 雑草の中には小さな花(それも雑草なんだろうけど)があってただただそれをじっと見ていた すると小さくて醜い虫が花の周りを飛び始めた せっかく穏やかな気持ちで花を眺めていたのに…と虫を睨んだ 好きな女優さんが醜悪な男と熱愛報道された時となんだか重なって見えた 虫が地面に降りた時、渾身の力を込めてこぶしでつぶした、と思ったら虫が私の手の中に入った 半透明な自分の手の中にうっすら透けて見える虫 ぎょっとして手を払うと虫は何事もなかったように飛び、花びらにとまった 

私って死んでいるんだったとつぶやいた

出来ない事は多いけど、誰にもあれこれ言われる事は何もない、だって誰からも見れないし聞こえないし触れられない 突然与えられた自由に今さらちょっと感動

花びらを触ると半透明の肌から薄い紫が透けて見えた 花の色が少しの間だけ私の中で揺れて私と共存する またこっちの世界に遊びに出かけよう