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ショーケンKampo ⑬ 慢性の下痢 啓脾湯(けいひとう)

症例検討会のように症例を通して漢方に親しむ、ショーケンKampoの第13回です。胃腸虚弱の方が、慢性的に下痢傾向を訴える状況に対して、啓脾湯(けいひとう)を使用した例です。

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【症例】男性 80歳

【主訴】下痢、食欲不振

【既往歴】胆石症、高血圧

【現病歴】60代で胆嚢摘出術を受けて以来、下痢傾向となった。胃もたれや、腹満感を自覚することも多くなった。半年くらい前から、食欲不振となり全身倦怠感も出現した。下痢止めなどでも症状のコントロールができず、半年で約3Kgの体重減少も認めた。消化器の悪性疾患がないか検査を受けたが異常なしだった。腹痛はない。やや冷え傾向。漢方診療希望で来院となった。

【所見】体格はやせ形で、高血圧をみとめる。血液所見に大きな問題はない。上腹部に手術痕を認める。脈はやや触れにくい。お腹はややくぼんでおり、力がなく、臍下は特に力がない。

【経過】体力がなく、胃腸虚弱があり、冷え傾向の高齢者であり、啓脾湯を処方した。食欲が少しずつ回復するとともに下痢もあまりしなくなった。一か月でほぼ症状は改善したが、服用しているほうが調子が良いとのことで継続処方としたが、服用量は個人で調節していただくこととした。

【説明】啓脾湯は、胃腸虚弱で体力が低下傾向の人で、慢性的に軟便、下痢、消化不良便を認めるような場合に利用される処方です。症例の方はちょうどそのようなイメージですね。胃腸機能をたかめ、滋養強壮効果があり、水のバランスを調え、元気をつけるといった生薬から構成されており、慢性の下痢を改善する効果があります。

保険適応病名は、「やせて、顔色が悪く、食欲がなく、下痢の傾向があるものの次の諸症:胃腸虚弱、慢性胃腸炎、消化不良、下痢。」となっています。

同様の症状で、胃の不調が強くみずおちに抵抗があるような場合は人参湯の方がよい場合もあります。また、倦怠感がさらに強く、むくみが出やすいような場合は真武湯を選択する場合もあります。特に啓脾湯と真武湯の区別はむつかしく、片方を使ってうまくいかなければもう一方という進め方が必要な場合もあります。

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脾は五臓の一つで、消化機能に関わるもの全体を含んだ概念と考えればよいと思います。啓脾湯はその脾の機能を啓き(ひらき)整えてくれる処方ということですね。漢方では鶏鳴の下痢という表現を使い、明け方に下痢をしやすいひとに使うと言われたりしますが、そのことにこだわる必要はないと思います。

胆石症に対して行われる手術は、胆嚢摘出術です。現在はほぼ腹腔鏡下手術で行われていますので小さな傷口で終了します。術後問題となるような合併症はほぼ無いのですが、提示症例のように腹部の不調を訴える方が時におられます。胆嚢摘出手術に限らずお腹の手術を受けた後に何か不調があるのなら漢方薬を利用できる場面も多いです。長く外科医をしてきてそれを実感しています。

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