見出し画像

ショーケンKampo⑧ 腰下肢痛の75歳男性

 症例を通して漢方の理解を深める、ショーケンKampoの第8回目です。これまで女性ばかりの登場でしたが、今回は男性です。漢方外来を訪れる方は女性が多いですが、男性もおられます。女性の場合は生理が始まる頃から全ての年代の方が来られますが、男性の場合は中年以降が多いと思います。中年以降という事は、老化が問題となってくる年代と言うことになります。

音声配信
Twitter

【症例】男性 75歳

【主訴】腰から左下肢にかけての痛み

【現病歴】もともと腰痛持ちだったが23ヶ月前から腰から左下肢にかけての痛みが出現した。体の動きにかかわらず痛みは持続していたので整形外科を受診したが年齢による変化以外は特に問題は無いと言われた。ブロック注射を受けた後は楽になるのだが症状はまた出てくる。足の冷えがあって風呂で温まると痛みは楽になる。便通には問題なく夜間頻尿がある。喉が少し渇く。

【所見】身長173cm体重62kg。触診上特に問題は無い。腹壁はやや軟弱で、へそ下に力の入らない部分がある。

【経過】いわゆる坐骨神経痛の症例で、夜間頻尿や下腹部が軟弱であることなどから加齢に伴う症状出現と考えられた。八味地黄丸を処方し経過を見たところ2~3週間で痛みが軽減傾向となり1ヶ月後には夜間頻尿も軽減し、痛みの範囲も狭くなってきた。食欲は変わらず良好とのことで継続処方とししている。

【解説】生きる力、生命エネルギーとしてとらえられる「気」には、親からあるいは祖先から受け継いだ先天の気と、誕生後に外界から取り入れる後天の気の二つが漢方では想定されています。先天の気が蓄えられている場所は腎とされています。年を取っていく過程というのは、この腎に蓄えられている気が徐々に減少していく過程ととらえ、気が減った状態を腎虚と呼びます。そして腎虚に対して用いる処方の代表が八味地黄丸になります。

八味地黄丸は古くから老化に対する薬として用いられ、精力増強剤としての面も持っています。加齢に伴ってでてくる諸症状として、腰痛、下肢のしびれや痛み、疲労倦怠、夜間頻尿、男性として元気がなくなるその他が挙げられ、それらの症状が見られれば、腎虚ではないかと考えて八味地黄丸を使うわけです。40代後半くらいから対象症例が増えてきますが、若い方でも腎虚だと考えれば処方します。

保険適応は、「疲労、倦怠感著しく、尿利減少または頻数、口渇し、手足に交互に冷感と熱感のあるものの次の諸症:腎炎、糖尿病、陰萎、坐骨神経痛、腰痛、脚気、膀胱カタル、前立腺肥大、高血圧。」となっています。

仰向けになりお腹を押してみると、下腹部中央の腹壁の力が落ちて柔らかく、押さえる指が腹壁に入るような状況がみられることがあり、これを臍下不仁(せいかふじん)あるいは小腹不仁(しょうふくふじん)と呼び、腎虚でみられる所見とされています。自分で触れてみて、下腹に力がないようでしたら、八味地黄丸を試してみるのもよいかもしれません。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?