安中散(あんちゅうさん)

 漢方薬の名前には、くすりがどのように効くかを表しているものがあります。安中散もその一つです。中というのは体の中、この場合は胃腸を主に指していると思われます。お腹を安らかな状態にしてくれる漢方薬というイメージが浮かんできます。胃が痛むときに処方します。

 逆流性食道炎の方は、胃酸が食道の方へ逆流して、食道粘膜に炎症を起こすものですから、治療の基本は胃酸を押さえるお薬を服用することです。でもそれで症状が改善しない方がおられます。そんな時に安中散も一緒に使うと症状が楽になることがあります。

 構成生薬は、桂皮、延胡索、牡蠣、茴香、甘草、縮砂、良姜です。お腹を温める方向に働き、胃腸の働きを良くします。円胡索(エンコサク)は鎮痛効果が強いといわれます。牡蠣(ボレイ)には胃酸分泌を抑える効果もあるとされます。保険適応はありませんが、生理痛にも効果があるようです。

 市販の漢方薬には、この安中散をベースにしたものがあります。有名どころとして、まずは太田漢方胃腸薬Ⅱ。これは安中散に茯苓が加えられているようです。茯苓には気持ちを落ち着け、水分バランスを整える効果がありますから、ストレスで胃がやられる人や下痢気味の人などを対象にしているのだと思います。次に大正漢方胃腸薬。こちらは安中散と芍薬甘草湯を一緒にした生薬構成になっています。芍薬甘草湯は筋肉の収縮を押さえるので、差し込むような腹痛に効きます。安中散よりさらに痛みに対する守備範囲が広がっているのかもしれません。

 漢方薬は生薬の組み合わせとその割合の妙で成り立っているものです。単に生薬を加えただけで、その生薬のもつ作用がそのまま追加されるわけではありません。現在保険適応となっている漢方薬は、多くの処方の中から取捨選択された精鋭部隊とも言えます。自分にぴったりの漢方薬に出会えれば、体調管理につながります。少しでも多くの方が漢方薬に興味を持ち、日常生活に取り入れていかれることを願います。

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