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es

 今から20年くらい前だろうか、es(エス)という映画を見たことがある。普通の人を10人くらい集めて、適当に囚人役と看守役に分け、模擬刑務所でしばらくの間過ごすという実験の映画だった。時間経過とともに、役柄に同化していき、看守役の人間が囚人役に暴力をふるいだしたりするという、かなり強烈な内容だった。タイトルから見て、ドイツかドイツ語系言語を使用する国の映画だと思うが覚えていない。

 急にこの映画のことを書き出したのは、Voicyでイケハヤ氏が「Humankind」の書評をしているのを聞いたから。その中の話で出た、スタンフォード大学で行われたとされる監獄実験の内容がまさにesのなかで描かれた世界だった。

 振り返ってみると、この映画の影響を私自身が大きく受けていたことに気付く。環境や役回りによって、人は大きく変わるものだという人間観を、どこか私は持っている。ひょっとしたら人間不信にまでつながっているのかもしれない。

 ところがイケハヤ氏が紹介した書籍の中で、スタンフォード大学での監獄実験自体が捏造だったことが論証されているという。またイギリスBBCがその実験内容の追試番組を作成したところ、語られているような被験者の変化はみられなかったらしい。

 これをきいて、なんだか実にほっとした。実際に、同じような生育環境の人間が同じようになるわけでなく、同じ役職に就いたものが同系統の行動様式になるわけでもない。そこそこ数週間の役割に染まって、その凶暴性を発揮するほどの変化を起こすわけがない。そう簡単に、狂気へと突っ走るはずないと思えるのは、人間に対する希望へつながる。Humankindの日本語副題が、希望の歴史となっている所以だろう。


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