一畳漫遊 一喜一憂GISTの乱⑩

 その後グリベックの治療効果はわりとよく続いてくれました。その間にグリベックが効かなくなれば次に使えるというお薬も開発されました。医学の進歩とやらをありがたく感じたものです。効果の持続は約1年半。その後またまた肝臓に転移巣の花が咲きました。次に控えていたスーテントというお薬も一旦効果がありましたが、半年ほどで病状は悪化しました。

 それでも体調は割と良かったので、まだ時間の余裕はあると勝手に考えていました。ある日少し体がきついかもしれないと感じたあとは、それこそ階段を転げ落ちるように体力が落ちました。娘への手紙を書くのがやっとでした。食欲は落ち、ほとんど何も口にできなくなり、手足は痩せているのにお腹だけは少し膨れている。幸い痛みはないけれど、私のその時の世界は、病院のベッドの上が全て。体は動かせず、私の思いのみがそれまでの人生のあらゆる場面に出かけていくことができるのでした。

 これが私がこの世とお別れする約2週間前の状況です。ある人の依頼で、その時に戻ってもう一度振り返ってみました。 その時々の結果に一喜一憂しながら、GISTの乱に翻弄された5年間でした。癌などの悪性疾患の末期は、ジワジワと体調が悪くなるのではなく、ガクン、ガクン、ガクンと悪くなるようです。もし闘病中の方が居られたら、調子は良いからと油断せず、体が動くうちにやるべきことをやり、やりたいことをやっておくのが大切だとお伝えしたいです。それは人生の終末に限らず、人生のどのステージでも言えることなのかもしれませんね。

画像1

 心配していた娘は、その後結婚をして子供もできたようです。孫をこの手に抱いてみたかったけれどそんなこと言ってもしようがないですね。限られた一瞬、この世に生を受け、それなりにわずかな痕跡を残して宇宙の中に再び溶け込んでゆく。この得難い瞬間を、今生きている方たち全てが、穏やかにそして幸せに暮らしていけることを願っております。こんな私のわずかな経験を最後までご覧いただきありがとうございました。ではお時間のようです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?