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ごいんきょさん

 落語にはよくご隠居さんが出てきます。世俗と関わり合いながらもゆっくりと時間が流れていく。特に楽隠居などと言う言葉の響きはいいですね。私も早くご隠居さんになりたいものだと思います。

 ご隠居さんと言うのは当然ある程度の年齢になっています。年齢とともに気力がなくなり栄養が低下し、心も体も潤いをなくしていきがち。しかし落語に出てくるご隠居さんのように元気よくうるおいのある生活をしたいものですね。

 日本漢方には気・血・水と言う視点から心身の調子を見ます。気力が落ちたら気虚、貧血気味で栄養が落ちたら血虚と呼びます。このように気と血には虚があるのですが、水には水虚という言葉がありません。一方、中医学には陰虚(いんきょ)という言葉があります。陰虚と言うのは体を構成する液体成分つまり血液やリンパ液組織間液などが不足し体が乾燥した状態になっていることを指します。そうなると体の潤いが不足し顔や手足が火照ったりすることになるわけです。高齢者によくみられる状態ですね。

 ご隠居と呼ばれる年齢になれば、まさに陰虚の状態になりやすいわけですね。そしてそういう時に利用される漢方処方があります。

 まずは六味丸(ろくみがん)あるいは六味地黄丸(ろくみじおうがん)とも呼ばれる処方です。潤い不足から体を冷やすことができなくなり、手足のほてりを感じるようなときに使います。加齢に伴う変化に利用するという点で、八味地黄丸と共通しますが、八味地黄丸に含まれる、桂枝と附子という体を温める生薬が除かれた生薬構成になっています。

 麦門冬湯(ばくもんどうとう)は、特に肺の潤いが無くなった状態(肺陰虚)に利用します。潤いが少ないので、乾いた咳になり、痰が出る場合も少量で粘稠なものになります。口や喉の乾燥感を訴えることもあります。滋陰降火湯も同じような症状に利用できますが、体力の落ちている人に使いやすい処方になっています。

 潤腸湯(じゅんちょうとう)は便秘に利用する漢方薬です。体力中等度あるいはやや低下しており、皮膚が乾燥傾向にある高齢者に主として用いられる処方です。コロコロした小さな硬い便が出る場合も多く、お腹を触ると硬い糞塊を触知することもあります。麻子仁、杏仁、桃仁などが腸に潤いを与えつつ便を柔らかくし便通を良くしてくれます。もちろん大黄も含まれています。

 ご隠居さんと呼ばれる年齢になっても、体調に応じた漢方薬を利用することで体調を整え、死ぬまで元気な年寄りでいたいものですね。

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