「一畳漫遊」 第2話 肝臓も沈黙できない④

 シャーカステンにある画像フィルムをいろいろ見せられながら、妻と一緒に先生の話を聞いた。シャーカステンなんて言ってもわからない人が多いかもしれないですね。現像されたレントゲンフィルムをぶら下げ、中からの光を通してみるものです。今ならすべてコンピューターの画面上で見ることができるようですね。それと悪性でもすべて患者に伝えることが現在では普通のようですが、以前はどこまで告知するかが問題となったりしました。私の場合は教え子の山下先生を通して菅先生にもすべて伝えるようにお願いしていたので、あらいざらいを説明してもらいました。聞いても平気だと思っていたのですが、胸の奥にズシンと強烈な衝撃が走り、聞いた時はあまり説明内容が受け入れられていなかったようです。あとで振り返ると説明内容は次のようだったと思います。

◎胆管がんである
◎肝臓に血管が入り肝管が出てくる肝門部といわれるところにある
◎切除するには肝臓を広範囲に切除する必要があるが、私の肝臓機能ではそれには耐えられないと思われる
◎放射線治療と抗がん剤治療が選択肢になるが、放射線はあまり有効とは言えないので抗がん剤治療が良いと思われる。
◎経過中に黄疸が出ることがあれば、肝臓の中の肝管にチューブを入れることで対応する必要が出てくるかもしれない。

 説明を受けた後、どのように返事をしたのか覚えていない。帰宅後妻に聞くと、抗がん剤治療を始めてみることで話が決まったとのこと。後は抗がん剤を飲み薬でやっていくか、一旦入院して点滴治療をやってみるかを次回の診察日までに決めることになっているらしい。しかし切除できないということは、治らないということと同義であろうなぁと思い、気力は失せ、体に力が入らない。国語の教師だったのもあり、哲学書などもかなり読んだ方だと思うのだが、自分の生死(しょうじ)にかかわる問題を一気にはねのけるというような力は湧いてこなかった。


画像1


 少しぼんやりしながら日々を過ごしているうちに、残された時間が少ないのは間違いないと思った。診断は肝門部胆管がんということになり、癌の悪性度が高いうえに、切除が難しいことが多いとされている。いくら沈黙の臓器と呼ばれていても、もう少し早く何とか言ってくれればよかったのに、と言いながらお腹をさすっても、気休めにもなりませんでした。いずれにしろ、残り時間を有意義に使いたいから、あまり病院と言う空間に縛られたくない。効果に大きな差がないのなら、飲み薬の抗がん剤を試してみようと思いました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?