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山梔子(くちなし)

 先日、くちなしの苗を二株購入し、庭に植えました。くちなしと聞いて渡哲也さんを思い浮かべる方はそこそこの年齢層ですね。甘い香りが人気とのことで、花とその香りを愛でる方も多いと思いますが、その果実が生薬となることをご存じの方は少ないのではないでしょうか。生薬となると、同じ漢字をもちいて、サンシシと呼ぶことになります。

 サンシシが構成生薬として含まれている漢方薬はいくつかありますが、使用頻度が多いものとして、黄連解毒湯(おうれんげどくとう)、加味逍遙散(かみしょうようさん)、温清飲(うんせいいん)、防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)などがあります。

 生薬としてのサンシシの効能の一つは、体を冷やす方向に働き、熱、口の渇き、顔の赤み、目の充血などを除くこと(清熱瀉火)です。もう一つは感染によって膿がたまっているような状態において、熱を抑え炎症を改善させる(涼血解毒)効果です。その他の薬理作用として、鎮痛作用、下剤作用、肝障害予防作用、血圧降下作用、脂質代謝改善作用なども報告されています。

 黄連解毒湯は比較的体力がある人に使います。高血圧傾向で、のぼせ気味で、いらいらする傾向のひとにおいて、のぼせ、顔面紅潮、目の充血、口臭、口が苦い、口渇、口内炎、動悸、頭がさえて眠れない、気分が落ち着かない、胸脇部が脹って苦しい、上腹部痛、悪心などを軽減します。急な皮膚のかゆみを改善することもあります。山梔子を含む四つの生薬から構成されており、いずれも体を冷やす傾向のある生薬です。

 加味逍遙散は、自律神経失調症などという病名をつけられるような方に利用され、とくに女性の精神神経症状を伴うようないろいろな症状に用いられることが多い処方です。冷えが気になる一方、イライラから顔が熱くなり急に発汗するなどという症状も見られます。山梔子は茯苓とともに精神、神経を安らかにする働きを発揮します。柴胡や薄荷などが気のめぐりもよくしてくれますし、健胃作用から元気もつけてくれます。

 温清飲は前述の黄連解毒湯と血を補う四物湯が一緒になった処方です。皮膚の色つやの悪さを四物湯が改善し、のぼせ、いらいら、不眠などを黄連解毒湯が対応してくれます。月経不順、月経困難、血の道症、更年期障害、神経症などが適応となっています。

 防風通聖散は、メタボ体形で便秘、高血圧、動悸、のぼせなどを訴える人に使われます。漢方の痩せ薬と思っている方もおおいようですが、やせている人がさらにやせたいと思って服用したりすると、単にお腹が痛くなり下痢をするだけということになります。山梔子は石膏、黄芩、薄荷などとともに、熱を冷ます方向に働いていると思われます。

 サンシシが含まれる漢方薬を使用する場合は、年余にわたる長期使用で副作用を起こす危険性がある点に注意が必要です。腸からの静脈に石灰化を起こす、腸間膜静脈硬化症という病気を引き起こすことがあるのです。一般的に5年以上の長期にわたって、山梔子含有漢方薬を服用していると、発症するリスクが上がるとされています。漢方薬も効果があるお薬ですから副作用を引き起こす可能性もあるのですね。


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