見出し画像

ショーケンKANPO ⑤ 「お腹の張った感じがある30代女性」

 症例から漢方を学ぼう、ということでショーケンKANPO第5回です。ところで、ショーケンという字を見て、萩原健一を思い浮かべる人は完全に昭和の人間です。

【症例】女性 30歳

【主訴】腹部膨満感

【現病歴】20歳になった頃からお腹の張りを感じるようになった。数年前からは便が柔らかめとなることが多くなり、排便後もなんだかまだ便が残っているようなすっきりしないような感覚が出るようになった。内視鏡検査や腹部超音波検査を受けたけれども異常なしとのことで便潜血も陰性であった。整腸剤などを飲んできたが症状は改善しなかったので、3ヶ月ほど服用してやめてしまった。症状が持続するので漢方診療を希望して来院した。

【所見】身長160センチ、体重46キログラム。腸雑音がよく聞こえる。お腹は柔らかくて押さえて痛いところなどはなかった。食欲は良好でお腹の張った感じはあるけれども痛くなるような事は無いとの事。脈は弱く舌縁に歯の痕などは認めたかった。両側の腹直筋の緊張を触れる。他覚的にはお腹が張っていると言う事はなかった。

【経過】比較的症状の軽い過敏性腸症候群の症例と思われます。腹直筋の緊張が強いことなどから桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)を処方しました。数週間でお腹の張った感じが軽くなってきて半年ほどの服薬で症状は消失したので診療終了となりました。

【解説】桂枝加芍薬湯は、比較的体力が低下した人の腹痛、排便異常を目標に用いられます。腹壁はやわらかく力が弱い感じですが、腹直筋が緊張していることがあります。一般的に、腸管の痙攣による腹痛、腹部膨満感、気持ちよく排便しない、下痢、四肢冷感などを伴います。過敏性腸症候群と診断されるような方に使うわけですね。保険適応は、「腹部膨満感のある次の諸症:しぶり腹、腹痛。」となっています。

渋り腹と言うのは、お腹がすっきりしないと言う感覚がベースになります。便は出したくなるのだけれどなかなか出なくてすっきりしない、便は少量出るのだけれどまだ残っているようですっきりしない、繰り返しお腹がぐるぐる鳴ったり、痛みが出たりしてすっきりしないといったところです。

桂枝加芍薬湯は、桂枝湯と同じ生薬構成で、桂枝、芍薬、大棗、甘草、生姜が含まれており、この中の芍薬が桂枝湯には一日量4g含まれており、これに2g増量して6gとしたものが桂枝加芍薬湯なのです。芍薬がもつ、鎮痙および鎮痛作用が増強されているという見方ができると思いますが、芍薬を増やすことでお腹に効く処方になるところが面白いところです。

 この桂枝加芍薬湯に、さらに膠飴(水飴)が加えられたものが小建中湯です。虚弱体質の小児に対して体質改善を目的として使われることが多い処方です。しかし大人に対しても、お腹の調子を整える整腸剤として働き元気をつけてくれると言う私の好きな処方の1つとなっています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?