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ショーケンKampo ⑭ から咳と麦門冬湯

症例検討会のように症例を通して漢方に親しむ、ショーケンKampo、第14回。痰をほとんど伴わない咳(空咳)の方に対して麦門冬湯(ばくもんどうとう)を利用した例です。

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【症例】 男性 70歳

【主訴】咳

【現病歴】約9か月前に肺がんに対する手術を受けた。術後経過は良好で、今のところ再発などは認めていない。しかし一か月くらい前から咳が頻発するようになり、ときに顔が赤くなるほど咳が続くこともある。痰はほとんど出ない。咳止めの薬を何種類か処方してもらったけれど効果がないということで、漢方外来紹介となった。

【所見】呼吸困難などはない。口が渇く。身長158cm、体重59Kg。やや便秘傾向。脈は少し深くに触れやや弱い。お腹の力は中くらいで、左肋骨弓の下に抵抗を触れる。左胸部に胸腔鏡下手術の際の手術痕を4か所認める。

【経過】体力が低下傾向で、体のうるおいが足りない、乾性咳嗽の高齢男性である。麦門冬湯を処方した。一月ほどでひどくせき込むようなことがなくなり、深呼吸ができるようになった。約二か月の内服で終診となった。

【説明】咳は、痰を伴わない渇いた咳である乾性咳嗽と痰の多い湿性咳嗽に分けて考えることがあります。乾性咳嗽によく用いられるのが麦門冬湯です。気道の乾燥から被刺激性が高まり、ちょっとした刺激で咳が続くような時に使います。一般的な咳止めは痰を止める作用から気道の乾燥をつよくすることがあり、かえって咳が出やすい状況になることもあるようです。

麦門冬湯は6種類の生薬から構成されています。肺を潤し、咳を鎮め、胃腸機能をたかめて元気をつけるといった意味合いの生薬構成です。保険適応は、「痰のきれにくい咳、気管支炎、気管支ぜんそく。」となっています。この場合の痰は、湿り気が少なく粘り気があり、なかなか取れないような痰です。

湿性咳嗽と言って痰が多い場合は、気管支炎や肺炎などを併発している場合があり、その時は抗生剤による治療が当然優先されます。喫煙が原因となって慢性閉そく性肺疾患(COPD)の状態で痰がよく出るといった場合には、清肺湯その他の漢方薬も利用できますから、痰が出て困るといった場合にも漢方医に相談してみてください。

かぜは治っているのだが咳が続き、鎮咳剤を飲んでもずっと咳が止まらないといった方が、漢方薬で速やかに良くなるといった経験をすることは少なくありません。病気に対する治療の原則は、西洋医学的判断を行ったうえで、必要ならば漢方薬を利用するというのが良いと考えています。西洋医学的治療でうまくいかない場合、漢方薬を利用してみるという選択肢があることをぜひ覚えておいてください。自分で漢方薬を選ぼうとするときには、適応に「咳」が入っていれば大丈夫と考えてしまいがちですが、咳以外の症状や体質その他を考慮しなければぴったりあった処方には行きあたらないかもしれません。一度は診察を受けましょう。

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