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人参で元気だ

 人参と言っても、肉じゃがやカレーなどを作るときにつかう人参ではありません。生薬の人参は、薬用人参とか高麗人参とか言われ、ウコギ科オタネニンジンのことで、生薬としてはその根が使われます。現代医学が進歩する前の時代では、体に元気をつけるものとして大切な生薬とされ、貴重なものだったようです。土地や気候の合うところでなければ良質な薬用人参が収穫できませんから、今でも貴重であることは変わりありません。

 元気をつけ、気持ちを整え、消化吸収能を高め、体に潤いを与えてくれます。元気をつけるという意味では、黄耆と同様で、人参と黄耆の両方を含む漢方処方を参耆剤(じんぎざい)と呼び、補中益気湯や十全大補湯といった元気づけ処方の双璧は参耆剤になります。

 人参の含まれる処方はたくさんあります。人参が含まれている処方を見つけたら、元気をつけて体調を整えるという意味合いを加えられた漢方薬なのだな、と考えてよいと思います。次に人参を含む漢方処方を少し挙げます。

 まずは、人参湯(にんじんとう)。保険適応は、「体質虚弱の人,或いは虚弱により体力低下した人の次の諸症:急性・慢性胃腸カタル,胃アトニー症,胃拡張,悪阻,萎縮腎」となっています。効能は温中散寒(体を中から温め寒さを取り除く)、補気(元気をつける)、健脾(消化機能をたかめる)といったはたらきとともに、水分代謝を整えてくれます。よだれがやたらと出るお年寄りに使うとよかったりします。

 次に、消化器外科医がよく使う大建中湯(だいけんちゅうとう)。保険適応は「腹が冷えて痛み、腹部膨満感のあるもの。」となっています。お腹の手術の後に、腸管の癒着などが原因でイレウス(腸閉そく)を起こすことがあります。そんな時にこの大建中湯が有効なことも多いので、消化器外科医がよく使うことのある漢方薬の一つとなります。山椒と乾姜が体を温め、人参が元気をつけ、膠飴が元気づけるとともに症状を緩和します。お腹が冷えて腸の動きが悪い人に使うと、便通が改善することも少なくありません。逆に冷えによる下痢を良くしたりもします。こうなると、便秘とか下痢とかを起こす大元の冷えを改善することで便通を整えてくれるという働き方をしているのがわかりますね。

 呉茱萸湯(ごしゅゆとう)にも人参が含まれています。保険適応は、「手足の冷えやすい中等度以下の体力のものの次の諸症:習慣性偏頭痛、習慣性頭痛、嘔吐、脚気、衝心。」となっています。体を温め、吐き気を止め、胃を温めて痛みを止め、消化管機能をよくして元気をつけます。冷えが胃から頭部に上がって起こるような頭痛を鎮めてくれるとされ、片頭痛に用いられる漢方薬でもあります。また、しゃっくりに有効なこともあります。

 ほかにも人参を含む処方はいくつもあります。漢方薬を手に取る機会があったら、人参が含まれていないかなど、生薬構成にも気を配ってみてください。

 なお、福島県はおたね人参の産地とのことで、ゆるキャラのおたねくんがいます。活動内容はよく知らないけれど・・・

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