桂枝湯(けいしとう)のはなし
桂枝湯は『傷寒論』の最初に出てくるきわめて大事な基本的な処方です。また桂枝湯を基本として、生薬を加えたり減らしたりしていくつもの処方が生れているので、衆方の祖、多くの処方のおおもと、といわれたりします。ちなみに私自身は桂枝湯自体を用いることより、桂枝湯の加減方をもちいることのほうがはるかに多いです。
保険適応病名は、「体力が衰えたときの風邪の初期。」とあっさりしたものになっています。比較的体力が低下した人の、感冒など熱性疾患の急性期症状にたいしてもちいられます。症状とすれば、頭痛、発熱、悪寒などをみとめ、わずかな汗で肌は少ししっとりしています。この汗をかいているかかいていないかというのは、漢方では注意していて、体力があり肌の強い人は十分体温が上がるまで発汗しないが、虚弱な人は体温が上がる前に汗をかいてしまうと考えます。
桂枝湯の場合の目標は、わずかに汗ばむという感じで、桂枝湯を服用した後に汗をかき始めたらそれ以上は服用しないのがよいとされています。また服用した後は体が冷えないように暖かくしたり、温かいお粥をいただいたりすることも勧められています。
さて、風邪の引き始めにはねつが上がるときやその前に寒気がすると思います。漢方の用語として、悪寒(おかん)と悪風(おふう)があります。悪寒は、布団をかぶってあたたかくしてもガクガク震えるほど寒気がするような状態で、悪風というのはちょっと外気にあたったり風にあたったりするとゾクッとするといった状態をあらわします。細かいところまで状態を観察している先人の眼を感じますね。
ここで衆方の祖である実例を少し羅列してみます。桂枝湯+葛根⇒桂枝加葛根湯、桂枝湯+葛根・麻黄⇒葛根湯、桂枝湯+牡蠣・竜骨⇒桂枝加竜骨牡蠣湯そのたたくさんあります。桂枝湯+芍薬増量⇒桂枝加芍薬湯、桂枝加芍薬湯+膠飴⇒小建中湯、小建中湯+黄耆⇒黄耆建中湯といった具合に、加減方のさらに加減したものまであります。いろいろ生薬を加減してきた、先人の努力や研究がしのばれますね。なお桂枝湯も他の多くの漢方薬と同様に傷寒論という書物が原典とされていますが、それより3~400年前(紀元前100~200年)の医師のお墓に収められていた医書に桂枝湯の原型と思われる処方の記載があったとされていますから、生薬を合わせて薬としたかなり初めの時期から存在していたことが分かります。
私自身は風邪かなと思えば葛根湯を服用していますが、年齢がさらに上がれば葛根湯では体に堪えるようになるかもしれません。その時には桂枝湯を含め、少し体力の落ちた人向きの処方を利用するようになると思います。皆さんもかぜの引き始めにこれ、という自分なりの漢方薬を持っていると安心ですよ。
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