物語 「一畳漫遊」 第2話 肝臓も沈黙できない③

 入院した肝臓内科の病棟は病院の7階にありました。比較的近くに海も見えるので病気でなければ実に気持ちよかったろうと思います。妻が、気兼ねせずに病室に来たいというので個室をお願いしました。個室の中では比較的安い部屋を頼みましだが、あまり長居はしたくないと思いました。

 一番大切なのは針生検とのことでした。肝臓に針を刺して、しこりの組織型と肝臓自体の線維化の具合を見るという。肝炎ウィルスの影響で肝臓が硬くなっていると機能も落ちているらしい。局所麻酔をして、エコーで確認しながら針を刺して組織を取ってくる。別に対して痛くもありませんでしたが、体の中へ針が入ってきていると思うと実に不愉快でしたね。肝臓は血の塊だから出血しやすいなどと脅かされるとなおさらである。

 針生検後の安静が解除となり、時間ができたので病棟をぶらぶらしてみた。それぞれ病気や状態が違うのだろうが、いろいろな点滴を見かけた。輸血しながら歩いている猛者もいた。多分抗がん剤などを打っている人もいるのだろう。本によると、肝臓は沈黙の臓器といわれ、予備能力が大きいので、傷んでもなかなか症状が出ないと書いてある。入院している人を見るとどうやら肝臓も黙っておられなくなった人が多そうである。比較して自分を鏡に映してみると、どう見ても健康な年寄りである。肝臓に何が起こっているのかまだわからないが、まだ沈黙を守っているようである。

 その他にはMRI検査と、肝臓の機能を調べるとかで血管に色素を打たれたりしたくらいで外来でもできるものだった。針生検が必要だから入院したうえでついでに一緒にやったという感じだった。生検後の体調に問題のないことを確認してから、組織検査の結果などが出るまでいったん退院となった。しこりが何であるか、治療はどのように進めていくかが決まるまでは、なんだか宙にぶら下げられた感じがして落ち着かなかったですな。さて、限られた時間を突き付けられるか、何らかの治療を行っていけばそれなりにまだ人生を歩んでいけるのか、次の外来受診が大きな分岐点です。

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 いろいろな思いを巡らせながら、妻と一緒に家に帰った。これまで当たり前に帰っていた家にたどり着いたとき、我が家というのは本当に心が落ち着くと実感し、ありがたいと感謝しました。

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