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遠志(オンジ)という生薬

 生薬というのは天然物医薬品と分類されています。天然物自体やそれに加工を加えたものになります。これに対して西洋医薬品は合成医薬品と分類され、化学的に合成された物質になり、基本的には有効成分が精製され、多くの場合は一つの有効成分が含まれていることになります。

 遠志という生薬があります。このオンジのエキスが物忘れに効果がある湯いことで市販されているようです。何年か前に新聞でもとりあげられていたとのことです。市販薬の命名と言うのは面白いもので、名前の由来が想像できます。遠志の場合、キオグッドなら記憶がGoodでしょう、ワスノンならば忘れることがNon(ない)でしょうし、アレデルならばあれあれと言って出てこない名前が出る、ということだと思います。ただしこれらは漢方薬ではなくあくまで生薬のエキスです。漢方薬と言うのは基本的に生薬が複数で構成されているものになります。

 「遠志」は主に中国北部を産地とするイトヒメハギという多年草の根を乾燥させたものです。ずっと先の遠き志をいつまでも持っていることをイメージさせる名前ですね。実際にその効果は、服用すれば、能く(よく)智を増し、志を強くするというふうに言われており、もの忘れに効果があると考えられています。さらに、心を安らかにし(安神)てくれます。

 薬理作用としては、鎮静・催眠作用、抗痴呆作用、抗消化性潰瘍作用、去痰作用、抗腫瘍作用、利尿作用などが報告されています。

 物忘れに効くといわれると、認知症に効くのではないかと思われがちですが、認知症を良くするわけではありません。なお、認知症に利用される漢方薬として抑肝散が知られています。しかしこれも認知症を治すわけではありません。抑肝散に神経が昂るものを落ち着かせる働きがあるので、認知症で攻撃的になる人を落ち着かせるのに利用しているだけです。

 医療用漢方薬で遠志が含まれているものは、帰脾湯、加味帰脾湯、人参養栄湯などです。帰脾湯の保険適応は、「虚弱体質で血色の悪い人の次の諸症:貧血、不眠症。」となっています。加味帰脾湯は帰脾湯に山梔子と柴胡が加えられており、こころを穏やかにする効果が強化されています。その適応は「虚弱体質で血色の悪い人の次の諸症:貧血、不眠症、精神不安、神経症。」です。人参養栄湯の適応は、「病後の体力低下、疲労倦怠、食欲不振、ねあせ、手足の冷え、貧血。」となっています。

 これら三つの漢方薬はいずれも補剤といって、心身を元気づける意味合いのある処方です。加齢と共に心身の衰えを感じだしたとき、体質や症状に合わせて利用することができます。日々の養生とともに、漢方薬をうまく利用して、健康寿命を延ばしたいものですね。

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