映画刀剣乱舞ー黎明ーは審神者を言祝ぐ平ジェネFOREVERだ!

『映画刀剣乱舞ー黎明ー』色々とすごかったですね。
どうしても文章にしたいことがあったので、放置していたnoteを開きネタバレ全開で感想を書きます。まだ見ていない人は、回れ右してください。
黎明も平ジェネも、クライマックスの重要なネタバレをします。断固します。ネタバレしたくない方は、見た時にでも読んでくださいね。


黎明、小林靖子にゃん脚本の前作の感じの心づもりで見に来たら結構びっくりしました。
前作と違うことにではありません。

あまりにも知ってる沼の水質だったからです。

黎明を見終えてスクリーンが明るくなってまず、まず何よりも先に思ったのは
「いや、これもう平ジェネFOREVERじゃん!!」
なのです。

平ジェネFOREVERとは、正式名称を『平成ライダー20作記念 仮面ライダー平成ジェネレーションズ FOREVER』という仮面ライダーの映画作品です。

近年、仮面ライダーには年に2種類、夏に公開されるその年のライダー単独の夏映画と、12月に公開されるその年の秋に終わったライダーと秋から始まった新ライダーの共闘の物語である冬映画があります。
『平成ジェネレーションズ』と題されたシリーズはこの冬映画にあたり、メインのライダーたちの他に先輩平成ライダーもオリジナルキャストで登場しきちんと活躍する、なかなか評判の良いシリーズでした。
FOREVERはその3作目であり最後の作品で、平成ライダーオタクのアタル、不思議な少年シンゴ、そして彼らと出会ったライダー達が、平成ライダーの歴史とその存在を念う(黎明公式本で“おもい”にこの漢字を当てていたのでここではこの表記にします)物語、なのです。

さて、ここからは刀剣乱舞黎明と平ジェネFOREVERの共通項をいくつか紐解いていきましょう。

①敵は歴史改変を目論んでいる

FOREVER上映当時にリアルタイムで放送中の『仮面ライダージオウ』は時空を超えて戦うライダーで、FOREVERのラスボスであるティードも未来から来た、“スーパータイムジャッカー”という肩書きのとにかく強い大東駿介。
現場に出てくるので、姿を見せない歴史修正主義者というよりは、時間遡行軍の大将みたいな感じです。

②根本的な力を奪って邪魔者を存在から消そうとする

ティードは、平成ライダーの最初である仮面ライダークウガの力をその誕生前に自分のものとします。
そうして本来の平成ライダーの歴史を壊し、それぞれにちゃんと存在していたはずのライダーを、この映画バースの中で虚構の存在、つくりごとに矮小化するのです。
映画バースの人間であるアタルと、ここでは虚構のはずの仮面ライダーたちが実際に出会うのは何故か。それはティードと同じ未来から来たフータロスという名のイマジン(※)にアタルが「仮面ライダーに会いたい」と願ったからなのですが、虚構の存在を無理に実体化している為にすぐに記憶をなくしたり、戦闘不能になってしまう。
弱体化したライダーなど敵ではなく、未来はティードの天下となる、という筋書きなのです。
(※これまた時間を超える仮面ライダー電王の世界の怪人で、cv滝藤賢一のとってもチャーミングなやつです)

翻って黎明では、刀剣男士を人形に顕現させるために必要な“念い”を過去で奪い取ることでその概念ごと消し、刀剣男士を生み出さないようにするという計画。
それが進むごとに、刀剣男士や未来の本丸の色が失われ消えていくところ、ここら辺でもう特撮オタク兼任審神者は(平ジェネFOREVERだ……)となるわけです。

③現実が辛すぎて世界滅亡してもいっか、となるオリキャラ

伊吹くん程のハードモードではないのですが、アタルくんは誕生したその日に兄が行方不明になっており、両親はいつもどこか上の空、不自由のない生活ではあれど生きづらさを感じていて、劇中、仮面ライダーという虚構のヒーローに逃避して何が悪い!とだんだんヤケになっていき、しまいには所詮は嘘なんだ、仮面ライダーなんていない、そう言って映画バースに現れたライダー達をさらに弱体化させてしまいます。

④念いと記憶が逆転のカギ

伊吹くんは自分と弟の念いを大切にすることで酒呑童子の力から離れることができ、それにより人々から奪われた念いが戻って刀剣男士は力を取り戻し……というのと同様に、FOREVERの逆転のカギもまた、アタルくんの“念い”なのです。
打つ手なしの大ピンチを救ったとある平成ライダーは、アタルくんにこう言います。

「誰かが覚えていてくれればそこに僕たちはいる。記憶という時間の中で、僕たちの存在は本当なんだ」

そして、アタルくんが仮面ライダーへの念いを再び強く持つことで彼も困難に立ち向かう強さを得て、映画バースの仮面ライダー達は強さを取り戻すのです!

⑤座席に座るオタクの存在を言祝ぐ作品

さぁ物語はクライマックスです。
逃げ惑う市民、迫り来る悪の怪人達……それを救うのは、消えたはずの平成ライダーたち!
襲われるこどもや大人、それぞれが心に強く念うライダーが目の前に現れて、次々と敵を倒し窮地を救ってくれるのです。
スクリーンのこちら側、座席に良い子で座る小さいおともだちが「がんばれー!」と思わず声に出したりしている中、大きいおともだちである私は、私たちの仮面ライダーが好きだという気持ちは決して意味のないことではない、この気持ちが仮面ライダーという概念を生かしそして私を強くしているんだ、そう感じて拳を握りしめ泣きました。大人なので「がんばれー!」は自重して。

黎明のクライマックス、渋谷の戦闘シーンで市民を見て長谷部が発した「まるで、みんなが審神者のように……」という言葉。
あの時、祈るように戦闘を見つめている市民と同じように、私はハンカチを握りしめ手を組んでいました。

私には劇中の仮の主達や審神者のような特別な力は無いけれど、刀剣達のことを“念う”ことは出来る。
平ジェネFOREVERに照らして、鶴丸!加州清光!不動行光!むっちゃん!兼さん!倶利伽羅江!?石切丸ぅぅぅ!!!と拳を握りしめその名前を心で強く呼んだ時、彼らの勝利を信じるその念いが彼らを強い刀剣男士たらしめると同時に我々を審神者たらしめている、と解釈するならば、『映画刀剣乱舞ー黎明ー』はスクリーンの前の審神者たちの存在を肯定してくれたのだ、と思うのです。

最後に、特撮オタクからの言い訳をひとつ。

歴史ミステリー風味の継承の後にいきなりの東映特撮風味が来て、戸惑われている審神者もそこそこいるのではないか、と思います。2.5次元と特撮は近しいものがあると私は常々思っているのですが、いきなりだと心構えがいりますよね。
東映特撮に馴染みのない審神者におかれましては、それはどういう理屈なんだ!?となるところもあったでしょう。私もあります。
そんなあなたに、平ジェネFOREVER劇中随一の理屈の男、天才科学者である仮面ライダービルドこと桐生戦兎が、「なぜライダーは何度も蘇る!!」とイラつくティードに発したセリフを最後に捧げます。

「世界は、理屈じゃないってことさ」

「ハァーイッ」(バチコーン!)

すみません三日月宗近が出てしまいました。三日月宗近のこの技、本当に可愛くて面白くて初めて見ましたよね。タイムスクープハンターの“特殊な交渉術”を体得するとああなるのかもしれないなぁなどとも思いました。
理屈じゃないって分かってるけど出来れば引っかかるところは減らして欲しい、そこよりもここがもっと見たかった、そこもっと掘り下げんかい!
……常に特撮オタクも思っています。ツッコミながらも愛してしまう、難儀な気持ちだなぁとも。
でもそんな時は……「世界は理屈じゃないってことさ」と「ハァーイッ」でちょっとだけ忘れて、一旦楽しいところを楽しむというのも、悪くないのではないでしょうか。


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