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おいしさとたのしさの疑似アルコール、ハッピーアワー

3年ぶりの秋のおいしいもののお祭り。今年はいきたいなあと思っていながら、テレビで初日の賑わいを眺めてのほほんとしていたのだけど、SNSで友達があげていたおいしい海産の写真とその日の気候が脳内で合わさり「これは最高でしかない!!!完全に行きたい!!!」と感情がロケット大発射。どうやら明日までは天気も晴れて気持ちよさそうだ。仕事が終わってからすみやかに帰宅して会場に向かっても15時すぎにはいけるはず。うまいもんを食べるなら誘うのはきみ!と決まっている、高校の友達にすみやかに連絡。「土日は基本OK!平日も仕事のあとなら大丈夫」とよいお返事がきたのでうっかり明日いける?なんて聞いてみたら快諾されたので最高。思い立ったが吉日、誘うならなる早。決まったそばからイベントのwebマップを開き、ターゲットを検討、牡蠣とホタテの存在を確認したのでロックオン。まってろうまいもん!!!最高の秋!!!!!


いつもの待ち合わせ場所に来た彼女は蛍光イエローの羽織物を着ていて、3年前とは少しテイストが違ったけれどバチっと気持ちよくかわいくハマっていた。久々の再会に腕をつかみ名前を何度も呼んでひとしきり興奮したあと、「とりあえず広い会場の中のあのエリアにいきたい」と端的に伝えると「うん」と返事があったので胃の合う者同士の最小限のコミュニケーションが成立、ゴール決定。3年ぶりの再会で話は雪山のごとく積もっているように思うけれどそれよりもまずはゴールにたどり着くこと。暑いなとか眩しいなとか、なんてことないことを呟きながら言葉少なくゴールへ向かう。目的のエリアに着いたら着いたで、ターゲットがどの店にあるのかを確認しつつ全店のメニューをひとしきりチェックしたのち、まずは牡蠣さまを購入。ここまでほとんど会話せずにいるこの感じがわたしたち。

牡蠣さま、安くはない価格なだけあって大きくぷりっぷり。丸みを帯びたおしりのミルキーなこと。ヒラヒラしているあたまからやってくる磯の風。貝柱の部分を引き剥がすのに苦労している間にぺろりと牡蠣さまを消し去っている友人。時折目を瞑りながらミルキーな海を堪能するわたし。飲み物は各自持参していたお茶。少し見上げれば青い空、食べ物から意識をそらすと頬を撫でていく秋の風。太陽は西日でしっかり照らしてくるけれどさほど暑くはなくて、これが秋の正解。いや〜すばらしいね、それではそろそろホタテのお迎えに。そこそこ混んでいた会場は白熱のイス取りゲームで、ちょっと席を離れたら次いつテーブルが見つかるかわからないので、友達の分のお金を預かりホタテとツブを獲得。つまようじを刺して貝から出すと、にゅるにゅるどこまでも出てくるツブ。大きいねえ立派だねえ。ホタテの好きなところは、貝ヒモがなかなかちぎれなくて格闘している間にも猛烈に「これがホタテの旨味だ!!!」と訴求されるところ。貝柱よりもヒモが好き。高校の友達の現状とか、色々なことをぽそぽそお話しながら食べていたらあっという間になくなってしまった。それがまたたのしいよね、誰かと食べる美味しい時間てね。すっかり空になった貝殻をしげしげと眺めて「なんていい景色なんだろう」「最高だね」と言い合う友達のいるしあわせよ。とってもしあわせだったけれど、イス取りゲームに敗北して立ち食いスタンドテーブル席で過ごしていたためにこの景色を手放してもう早急に座りたい。いすじゃなくて草原に秩序なく座りたい。テーブル席よさようなら。秋の草原よこんにちは。


草原に腰を下ろすと、気温が無だった。暑くもなく寒くもない、何も感じない無の瞬間。秋の高い空、どんどん傾いてゆく太陽、混雑から離れているけれどここは都会のど真ん中。さっきまでいた方向をみるとしっかりと賑わっていて、なんて平和なことだろう。思いついたことをぽろりと話し、なんとなく話し終えたらぼーっとして、またなにかあれば話して。絶え間なく笑える時間も楽しいけれど、話したり話さなかったりする時間のほうが平和と愛のかたまりになってしあわせになりがち。気まずさを感じずにそんな時間を過ごせる友達が本当に大切。でも、でも、あ〜〜〜〜そろそろトイレにいきたい。かたい地面でおしりが痛い友達は先程からずっとしゃがんでいて脚が限界とのこと。そろそろ立ち上がっていきますか。どこに?とりあえず左に。なんとなく帰路に。そうして歩き始めてまもなく、彼女になにか思い残すことはないだろうか?となんとなく思っていたら「おなかすいたかも」と突然いわれてタイミングがすばらしかったね。なんとなくそんな気がしてたんだよねと笑いながら、人の流れから離脱してカフェに向かうわたしたち。なにか食べたい彼女、なにか飲みたいわたし、じゃああの店かな、と大好きな喫茶店へ。2階は誰もいなくて、わたしたちだけの窓からみえるおなじみの景色。ここからこうして外を眺めるのも3年以上ぶりかもしれない。


はじめて注文したケーキセット、はじめて飲むこの店の紅茶。お金を払っている以上ある程度の味は保証されているものだとは思うのだけど、それにしてもおいしい。少し濃くなりすぎたときの渋みやエグみがゼロなの、提供された場が喫茶店であるという前提では当たり前かもしれないけれど、それでもほんとうにうれしくなるほど余計な味がしない、おいしい紅茶。余計な材料を感じないケーキの舌触り。ささやかに香るラム。静かなアクセントのナッツ。ようやく腰を落ち着けて話せる状態で会話が花咲く中、ケーキの美味しさを口のなかの顕微鏡で観察できるまでに集中して味わい尽くすことはできないけれど、それにしてもおいしくて不定期に口から「美味しい!」が飛び出す。最近カフェインで動悸の傾向があるせいで、久々の紅茶でさえカフェインロシアンルーレット気分で怯えながら飲んでいたのだけど、どうやら身体も問題なさそうだ。紅茶とケーキの美味しさと友達とのおしゃべりの楽しさがまるでアルコールみたいに身体に沁みていく。会話と会話の間の沈黙で、しあわせ成分がわたしのまわりを包んでぱちぱちしてついにやにやしてしまう。これ、おいしいお酒とおいしいおつまみで最高の気持ちになってるときと同じです。お酒は全く入っていないのに、あのしあわせがここにある。なんてことだ。た、た、たのしい!!!とぼんやりしていたら「閉店の時間ですー」と声が聞こえた。わあわあ、すみやかに退店。外に出ても空気はまだ気持ちよくて、夜が終わる気配がないのが心強い。でももうわたしたちは解散する。まだしっかりと一日が残っている時間に解散するところまで含めて、わたしたちの最高な過ごし方。「いや〜最高の流れだったね」という彼女の言葉で今日一連の時間の最高さが確固たるものになる。3年ぶりでも、会話がまばらでも、お酒が入らなくても、やっぱり最高の流れを共有できてしまう。なんてしあわせ。

「あなたは本当においしそうに食べるよねえ。こっちまでもっと美味しくなるからたのしい。」駅に向かいながら突然そんな風に言われて嬉しかったけれど、それは胃の合う彼女だからなおのことなのだ。食べたいと思えるものが同じひと。おいしいねと、うれしい気持ちを共有できるひと。おいしい!!!を遺憾なく炸裂させられる相手。炸裂したものを受け止めてくれる相手。おいしいの相乗効果。ああしあわせの源泉。別れ際には「今度はタイ料理食べにいこうね!」とにこやかに手を振られる。次の約束もしっかり決まった。

軽やかに解散したあと、そのままひとり本屋へ。気になっていた本を見つけ無事購入して最寄り駅に降りると、風は相変わらず気持ちいい。少し湿気はあるけれど、秋の風。イヤホンを忘れてきたので、脳内でフィッシュマンズを再生しながら雲に隠れる月を見上げて歩く。中秋の名月は昨日だけど、今日も十分輝いている。今日の記憶と見ていた景色を残しておきたくてiPhoneのカメラを向ける。止まらずに撮るから何度やってうまくいかず。気がついたら脳内のフィッシュマンズは止まってる。マンションの前について、もう入るよというときにようやく足を止めてちゃんと撮る。いい一日だった思い出のお月様。





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