オレンジ色のニクい奴

 7:2:1。

 これは駅の売店やコンビニで夕刊紙を買うときの割合。それぞれ日刊ゲンダイ:東京スポーツ:夕刊フジを指している。そう、私は完全にゲンダイ派だ。

 思えば最初に夕刊紙を買う行為が常習化したのは高校生のときだった。プロレス情報が充実していたこともあり、当時は東スポ一辺倒。スマホどころかガラケーもない時代だから、移動時間などの暇つぶしに活字は欠かせない。朝はスワローズ情報が充実しているサンスポ、夕方は東スポ、それから数種類の漫画雑誌も読み漁っていた。

 ゲンダイ派に転向したのは大学に入ってからのこと。こんなに面白い新聞があっていいのかと驚愕した。新聞なのに思い込みと偏見に満ち溢れており、文章の熱量が半端じゃない。バッシング記事になるとその勢いは増すばかりで、自民党、巨人軍、サッカー日本代表、大相撲、大マスコミなどに舌鋒鋭く噛みつく紙面作りに留飲を下げたものだ。反権力、反体制を一貫させる姿勢はパンク・スピリットそのものと言っていい。

 その一方で男性器をオットセイに見立てた傑作漫画『やる気まんまん』、軽妙な文体が唯一無二の『盛り場ニュース』、五木寛之による激ゆるコラム『流されゆく日々』など連載ものの充実ぶりもうれしい限りだった。私がこれまでの人生でゲンダイから受けた影響は、本当に計り知れない。

 タブロイド紙に興味がない人にとっては完全にどうでもいい話だろうが、3紙はカラーがまるで異なる。『アサヒ芸能』と『週刊大衆』と『週刊実話』……あるいは『週刊女性』と『女性セブン』と『女性自身』の違いなんて、ゲンダイとフジと東スポの差に比べたら屁みたいなものだ。

 とにかく文句ばかり言っているゲンダイ、わりとフラットにその日の出来事を報じるフジ、ひたすらバカバカしい東スポ。これが3紙の基本的な立ち位置。

 ところが最近はパワーバランスが崩れている。フジは反中・反韓の右傾化が目立ち、東スポはプロレス・格闘技から競馬に軸足を移すようになった。いくらゲンダイ派の自分だって、ゲンダイ特有の押しつけがましさには胃もたれすることがある。そういうときはフジを読んで体内を中和させたいのだけど、そのフジですら暑苦しい紙面作りになっているのだ。これは非常に由々しき事態。フジは本来あるべき姿に戻ってほしいと切に願う。

 今は安倍晋三が桜を見る会の問題で窮地に立たされている。もちろんゲンダイは鬼の首を取ったように連日大はしゃぎだ。「アンチは最大のファン」とはよく言ったもので、結局、ゲンダイ読者は自民党や巨人が気になって仕方ない人種なのだろう。

 東スポも大概頭が悪い新聞だが、ゲンダイはより偏差値が低い。だからこそ、私はゲンダイを愛してやまないのである。

(2019.12.06:初出)

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