最近、再会した

「何か書かなくてはならない」

子どもの頃から、文章を書くのが好きだった。私の書く文章は、とても上手だと褒められた。
親に、先生に。
私は文章を書くのが得意なんだ、嬉しくて文章を書く場面をいつも楽しみにしていた。
夏休みの宿題、テスト、発表会の原稿。誰よりも早く、長く、わかりやすく、上手な文章を書いた。
作文発表会のクラス代表は毎年私だった。
絵を描くのも書道も勉強も得意だったけど、一番にはなれなかった。
一番になれるのは、この文章を書く力しかない。
「私は将来小説家になります」と小学校の卒業文集に書いた。

中学校では休み時間に図書室に行った。本好きな子と仲良くなり、よく一緒に勉強した。私がふざけて友達のノートに書いた小説の一節に、友達が続きを書いた。その続きを私が書き、また友達が続きを書く。気付けばノート10冊分を超えた。ロッカーに入れておいたら、知らないうちにクラスの男子が回し読みしていた。
地味な女子が書いた小説なんて、なんてからかわれるか分からない。悪く言われるだろうと覚悟していたが、みんな面白いと言ってくれた。早く続き読みたい、と言われた。嬉しかった。友達が可愛かったからかもしれないが。
私にとって、みんなに認めてもらう方法は、やはり文章を書くことなのだ。自分一人でも小説を書いたり、友達と大会に応募する?なんて話したりして盛り上がった。自由で、自信があって、何でもできる。私には才能があると感じていた。

高校生一年生の三者面談で、先生に言われた言葉がある。
「あなたが書く文章はとても素晴らしい」
嬉しかった。8年経った今でも思い出すくらいに。
私の才能は特別なんだ。高校では勉強も難しくなって、成績じゃ上位になんてなれなかった。現代文以外、難しくてついていけなかった。受験期には文章を書くなんて余裕はなく、苦手な英語を泣きながら勉強していた。得意なことをやっている暇などなかったのである。なんとかギリギリで、そこそこ有名な私立大学に進学した。

大学生は全員通る道なのだろうか?
文系は特にそうなのだろうが、いわゆるレポートと呼ばれる課題が出されるようになった。
私が得意な文章を書く課題である。子どもの頃であれば喜んだはずの場面で、私は固まってしまった。

全然書けないのだ。
課題の内容が難しくて、どうアウトプットしていいかわからない。鉛筆で書いていたならまだ書き進められただろうか?
結局私がやったことはそれらしい文章をコピーし、貼り合わせ、それらしい文章の形を作ることだった。

私は文章を書くのが得意ではなかったか?
鉛筆で書くものだけが得意だった?
キーボードだからいけなかった?
課題が難しすぎたから?

私は他人の文章を拾って、盗んだのだ。他人のものを、我が物顔で提出したのだ。何が文章を書くのが得意、だ。
私のプライドは捨ててしまったのだ。

大学を卒業する頃、思い出した。
中学生、高校生の頃、私は大学生が嫌いだった。毎日遊んで、ろくに勉強もしないでズルばかりして卒業するから。私もしっかりと”大学生”をこなし、単位ギリギリで卒業した。ズルばかりして。

すっかりボロボロになった(ボロボロにした?)プライドとともに捨てられた、私の小さな才能は、また数年後に思い出すことになった。

「あなたの書く文章は簡潔で読みやすいね」
就職して1年目、上司にそう言われた。嬉しかった。そして思い出した。私、文章書くの得意だったなあ。嬉しかった。そう、私はいつも文章を褒められると嬉しかったのだ。小学校、中学校、高校の頃の思い出が蘇った。私の才能を認められることは、私が私らしく生きていることの証明だった。
1年目の私が書いた文章の内容は酷いものだったと思うが、文章としてはよく出来ていたようだった。上司は何気ない気持ちでちょっと褒めてみただけだろうが、私には少々衝撃的な出来事となった。

文章を書こう。やはり私には才能がある。正直それ以外なにもないくらいに。この才能をいつまでもほっといたら本当に腐ってしまう。
すでにかなりカビが生えているが、もう一度文章を書くということに向き合うことにした。
ずっと放置して、いないことにして、申し訳なかった。過去の自分にどれだけガッカリされることか。
大人になった今、仕事以外で書かなきゃいけない文章なんてない。何を書いても良いのだ。何を書こうか。自由だ。小説でもエッセイでも日記でもなんでもいい。

書けなかった。
毎日ダラダラと140字制限のTwitterを更新まくっているくせに、長い文章が書けなくなっていた。小説もなんにも面白い設定が浮かばない。やはり才能は幻想だったのか、才能はないのかもしれない。
この際、もうなんでもいいかと思った。エッセイというのかなんだか知らないが、頭に浮かんだ言葉を繋げてみよう。
まず最初に書いたのが今のこの文章だ。テーマがないと書けないと気付いたので、何故文章を書こうと思ったのかを書いてみた。今までの自分の人生を整理したかった気持ちもある。
めちゃくちゃな文章になった。本当はもっと上手に書けるんですよというプライドがチラついていてとてもダサいが、仕事以外で本当に久しぶりに長い文章を書いたと思う。
リハビリがてら何でもいいから書いていこう。
いずれは小説なんかも書けるといいなと思っている。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?