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はなえさん、酒やめるってよ

人生で何度目同じ宣言をしたことか分からないが
お酒をやめようと思う

私は飲んべえキャラである

飲み会が好きな職場では
なんでもよく飲むので
グラスが空いていようものなら
即座に注がれ、注文され、美味しいお酒も美味しい飲み方もたくさん教わった

私の母は下戸、父は酒飲み
小さい頃、晩酌している父の膝に乗って
ツマミの乾き物を拝借する私を見て
「あんたは酒飲みになるね」とよく母から言われたものだ

そんな私が成長し、初めてお酒を飲んだのは
友達との集まりの席。
歳上の方が買ってきてくれた色んな缶のアルコール飲料の中から
甘くて美味しそうなフルーツ系のやつをいただいた

うめぇ……

おしゃべりしながらあっという間に1本が空になる

喉が渇いてもお酒以外の飲み物がなかったので
また1本いただく

やっぱりうめぇ……ジュースじゃん

このあたりで、周りの友達の様子が変なことに気がついた
1人は顔が真っ赤で、1人は何を喋っているのか分からず、1人はほぼ寝ている

危ないって。今日初めましての男の人とかいるのに。
みんなどうしちゃったんだ。

私はといえば
多少の高揚感はあれ、特段なにも変化なしなようで
全然顔赤くならないね、なんて言われる始末。

この日、結局私の記憶だけが鮮明で
しかも数時間後にはバイト先で普通に働いていた。

私にはちゃんと
酒飲みの血が引き継がれていたみたいだった
(後にこれを恨むことになる)

しかし私はその後
習慣として酒を飲む人間にはならなかった
まず、自分にお金を使えなかったから
酒を買おう、なんて気が起きない

なにより、同級生より早く結婚して子育てをしていたので飲んでいる場合では無いし、飲みの場にも呼ばれない

夫もアルコールに弱いし、そもそも飲む人でもなかった

そんなこんなで20代は
ごくたまに、バイト先のみなさんとのお食事会で出されたお酒を飲む程度だった。

しかし30代、事情が変わった。
離婚である。

私は幼い子供を4人連れ、シングルマザーとなる。
普通に大変なことはたくさんあったが
毎日仕事に疲れ、社会に阻害され、子供が寝た後に飲む酒だけが……というありがちな事にはならず
周りの環境に恵まれ
慎ましく真面目な()わたしの性格のおかげで
貧乏ながらもそれなりに暮らしていた。

しかし、転職した先に酒呑みモンスター達が勢揃いしていたのだ

とにかく飲み会が好き上司
酒にめちゃくちゃ強い女性
酒が好きで飲みすぎて粗相を大学生の息子に対処してもらうシンママ
他にもとにかく酒を取りたげたら
人生の8割くらいの楽しみがなくなったと悲しみそうな多種多様な「酒呑み」達がいた

新入りの私を暖かく迎えてくれ
飲み会に誘われる
出された酒を飲んでも、酔わないが
いつもよりよくしゃべり、よく笑い、よく食べ、そしてよく呑む私を見てきっと
「おもしれぇ女」となったのかもしれない

すぐに私は「飲んべえキャラ」となった

率先してお酌をしなくても、サラダの取り分けなんかしなくても、ニコニコ酒を飲んでいるだけでみんなが優しくしてくれる。

男性が私にお酒をついで話しかけてくれる
コレはもしや、遅れてきたモテ期ではないか?
人生ゲームが急にイージーモードに切り替わったように感じた。

そこから数年、呑みに飲んだ。

大学生と同じノリで騒ぎ、時に深夜の車道を駆け抜け
30代のコブ付き女は飲んで笑って、酷い迷惑はかけない程度に楽しんだ。

あの時体験できなかった「青春」とかいうやつの欠片を必死にかき集めるみたいに。

何度か転職をしたが
酒呑みの鼻が利くのか
どこにいっても酒好きがいて、私が呑めると知ると
みんな嬉しそうに酒を勧めに来る
酒飲みは仲間を見つけるとさも嬉しそうに、いや、この沼から抜け出させるまいと
ズブズブと酒臭い沼に頭まで浸からせに来る。

そんな最中にアイツがやってきた。
コロナである。

飲食店は酒の提供をやめ
会社は飲み会を禁じ
子供たちは学校に行くことさえも出来ず
世界がみんな引きこもった

私は酒の席ではカースト上位にいられるが
元来、ひとりでいるのが好きで、人間は嫌いでは無いが、誰かといると気を遣いすぎて疲れるタイプなので
少しほっとした部分があった

しかし、私の中五臓六腑が納得しないのである。
酒呑みの血が疼き、全身の細胞が酒をよこせ!と騒ぐ

彼らを黙らせるためにお酒を買わなければいけない
世は外出自粛期間
不要不急ではないお酒の買い出しなどもってのほか
ここで、人生で初めてケースで酒を買う体験をする
アマゾンの奥地から箱に整列した愛しのストロング系チューハイが我が家の玄関まであっという間に届くのだ。
そのために私がした事は少し指先を動かしただけ
まさに魔法使いである。

最高だ。
冷蔵庫を開けると
ストゼロが整列している。
ミサトさんはビールだったが
私はあんなものでは酔えない、しかも高い。
貧民は黙ってストゼロ。ストゼロしか勝たん。

在宅勤務中に我慢できなくなることも考えて
ノンアルコール飲料も併用していたが
あんなもので私の身体は騙せない
むしろ火に油を注ぐ行為だった。
父よ、酒呑みの血を絶やすことは許されないのか。

ストゼロの消費量が日に日に増えていく
段々と耐性がついて
3本飲んでも飲んだ気がしない。
しかしアルコールは確実に体内に蓄積され
どこかのタイミングで記憶が途切れ
気がつくと深夜、尿意と頭の重さで目が覚める
そして朝方まで眠れず
昼間ボーッと仕事をこなし
終業が近づくと
もうすぐ飲める喜びで身体が俄然元気になり
退勤30秒後にはプシュ!っとやってる自分にすでに酔っていたりして

そんな事の繰り返しが数年続く中
時たま頭をよぎる「酒をやめたい」という気持ちに気がついた

最初は単純に二日酔いが辛かった
飲み会ではなく自分一人で飲んでいるのだから
無理に飲む必要はなく、飲まなくていい時は飲まなければいいだけなのに
まるで息をするようにプシュ、ゴキュゴキュ、ハァーッ!
1本が2本、2本が4本
まるでガマの油売りのようにどんどん増えていく空の缶
次の日ズキズキする頭を抱えながら
空き缶を見て、昨日の自分を恨む日々
顔は浮腫み、胃がムカムカし、普段から自分が嫌いで自責がやめられないのに、さらに自分を酷い言葉で攻撃したくなる

そして、その一連が自分の働いたお金で行われているという馬鹿げた事実。
生きる金を得るために仕事をし、そのストレスを解消するために金で酒を買い、二日酔い対策にサプリメントやらに金を使い、自己嫌悪で酒量が増え、また金が減る……負のループのお手本ではないか。
人生は死ぬまでの暇つぶしとはいうけれど、暇を潰すにしてももう少しマシな手段があるだろうに
父よ、その辺はどうお考えか。

酒をやめなくては、という人の中には
健康診断の数値が悪く、医者に禁酒を命じられたなどと言う人がいるが実に羨ましい。
血液検査の数値をみた医師が顔をしかめながら
このままだと死にますよ。人生と酒、どっちを辞めますか、とか言って欲しい、いい声で。
そしたら私、嫌です!せめて子供が全員成人するまでは死ねません!先生!私、お酒辞めます!って白衣を着た津田健次郎に誓う。

全然健康なんだよ。悲しいほどに。
献血の血液検査でも、健康診断でもどこもかしこも正常値。脳はちょっとアレかもしれないけど。

多分これは習慣的飲酒がまだ10年くらいだからなのだろう。これから先はさすがに津田健次郎も1度詳しく検査した方がいいでしょう、と言ってくれるに違いない。いい声で。

じゃあなんで今、またやめるって言い出したかと言うと
自分からお酒を取ると何も無いんじゃないかって不安になったからで
やりたい事はそれなりにあるのに
仕事終わって家帰ってきてお酒飲んだら
もうその後なにもできていない自分に心底絶望したからだ。

時たま飲まなくても大丈夫な日があって
帰宅して、少しゆっくりして
夕ご飯作って、お風呂に入って、家事をちょこっとやつて、ふと時計を見るとまだ20時30分くらい
寝るには早いし、頭もクリアだし、2時間くらいなにか出来そうって考えた時に
お酒飲んでなかったら毎日2時間も自分の時間作れるの?は?なんかのバグか?とちょっとキレた。
酒を呑める身体で生まれた事を恨んだ。
お父さん、1度だけあなたとお酒を飲み交わせたことだけは嬉しかったよ。

私は割と何かを作るのが好きで
料理、手芸、工作、文章、ここ数年は特に動画を作ることに熱心である。
しかし最近は意欲はあるものの、飲酒しながら作業することになるため集中出来ず、すぐ眠くなり全く制作が進まない。
頭の中にはアイデアは無数に生まれていて
あんなこといいな、できたらいいな、とウキウキしながら取りかかるのに
すぐに脳内のサボりん坊が「まぁ、明日でいいんじゃね?」とお酒のおかわりを進めてきやがる。
そして私もそれに応え、夜は更けまた浮腫んだ顔で派遣の仕事に向かう。

ありがたいことに動画は多少の収益を生んでいる。
楽しみにしてくださる視聴者様も多く私もそれに応えたいし、1円も払われない養育費を待つのは諦めて
動画の収益で子供の学費を用意したいという野望まである。
お金は大好きだし、動画を作れば多少なりとも収入が増えることもわかっている。

なのに、それなのに、だ。

制作の手が止まってしまうのだ。

仕方が無いので、YouTubeやネット記事で
副業やら、資産運用なんかを調べて
さも意識の高いことをインプットしているようなフリをしながらまた酒を飲み、1日何も生産せずに終わっていく。

もうこんな生活は終わりにしたい。

私の場合、中途半端にやると死ぬ時に
もっとお酒を飲めばよかった、などと思いかねないので
すっぱりと酒をやめる、というか
お酒がなくてもいい生き方をすることにする。

時に付き合いで飲むことはあってもいいのかもしれないが、まずその前に、その付き合いが本当に必要なのか、そこから考え直したい。

日々のストレスを酒でかき消し、そのせいでまたストレスを溜める。
今、こういう生活をしている人はきっと多いと思う。

私は現在42歳。
今さら人生を取り返したい、とか恥ずかしいにも程があるが
これから子供達が独立して本当に独りになった時、
何も残っていない人間ではいたくない。

生活からお酒を除いても「わたし」であれるのか
実験しながら生きてみようと思う。

お父さん、酒呑みの血は俺で絶やします。絶対に。

我慢ばかりの子供達をちゃんとした「旅行」に連れて行ってあげたい。 映画や観劇、体験型レジャーなんかもしてみたい。 養育費と慰謝料がないので面白かったらチップをお願いします。