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自分のお金で靴を買っただけの話

今日、待ちに待ったものが届いた

原宿大好きの青文字系ファッションだった中学生の頃から
ずっとずっと憧れていたドクターマーチン

今回は3ホール
ソールは厚めのBEX

「今回は」と言ったのには訳がある

実は以前8ホールのマーチンを履いていた

それはそれはお気に入りで
重いのに週の半分くらい履いていた


それは当時お付き合いしていた人からの
クリスマスプレゼントだった

お別れした後、ひどく悩んだ

物に罪はない
私と彼の関係と、私とマーチンの関係には
なんの関係もない

ただ、マーチンを履くたびに
なぜか心がちくちくするのだ

自分のお金では到底買えない金額の靴

傍から見れば不相応かもしれない
この靴売って子供に美味しいものでも食べさせようか、とか


どこかで彼にばったり出会ってしまった時に
まだ俺のあげた靴履いてるんだ、なんて思われたくない

そんないろんな感情に苛まれ
疲れ果てた私は
大好きだったマーチンを、数年履いてやっと少しだけ自分に馴染んで仲良くなれていたその靴を
可燃ゴミの袋に入れた

誰かに譲ることも考えた

でも大好きだからこそ
他の誰かの人生の小道具にはなってほしくなかった

売ったお金を素直に財布に入れられる気がしなかったし
そのお金が子供達のご飯になるのもイヤだった

寂しいより、悔しさが大きかった

大好きな靴を自分で買えなかった
大好きだった彼は別の人と幸せになったのに
いつまでも思い出に縋っているような自分も惨めだった

いつか、またいつか
次は必ず自分のお金で迎えに行くから。

そう誓ってそっとゴミ袋を集積所に置いた

*  *  *

あれからどれくらい時間が経っただろう

今私の靴はディスカウントスーパーの値引きされていたキャンパススニーカーと
ワークマンの980円の靴とちょっと奮発してGUで買った2,980円のローファーだけになっていた

素敵なパンプスが欲しいなんて思わない

ただ、マーチンが欲しい

自分の力で手に入れたマーチンが欲しい

ネットショップの買い物かごにはいつもマーチンが入ったまま
たまに在庫切れになったり、ポイントが10倍になったりしながら
少し居心地悪そうにしている

そして決意した

次の休みに大好きな作品に会いに行く予定があったから
少しでも好きな自分になりたかった

似合っているかなんて知らない
年相応とかもわからない

でも一つだけ確かなことは
私はマーチンが好きだし、それを履いた時のあの心踊る瞬間も
初めてキラキラの靴をもらった子供のようにウキウキしてしまう自分も
とても好きだということ


箱を開け薄い紙をそっと退けると
マーチンは眩しそうにしながら現れた

やっと、やっと会えたね
私のマーチン

誰にも遠慮せずにいつだって一緒に過ごせる

まだちょっと緊張して肩に力が入っている新しい相棒

私をたくさんの素敵な場所と素敵な人の元へ連れて行ってね

そう願う私の足元には今日も私のマーチンが寄り添ってくれている。





我慢ばかりの子供達をちゃんとした「旅行」に連れて行ってあげたい。 映画や観劇、体験型レジャーなんかもしてみたい。 養育費と慰謝料がないので面白かったらチップをお願いします。