【ショートストーリー】 ひとひらの想い
対岸に1本だけいる桜の木に
梅の木は嫉妬していた。
細い体なのに枝の広がり方が綺麗で
いつも行く人の心を捉えていたから。
ある者は立ち止まり何時間も見つめ
ある者は花だけではなく、桜の木と一緒に写真を撮り
またある者は、まるで恋人のように優しく触れる。
こちら側から見ていると
まるで見捨てられた気分になってしまう。
「 ワタシだってこんなに綺麗に咲いているのに!
どうしてワタシにあんな風に寄り添う人はいないの! 」
梅の木は毎年そんな気持ちでいるから
花の色もどんどん濃いピンク色に染まっていった。
対岸に1本だけいる梅の木に
桜の木は憧れていた。
立派な体を持っているその梅の木は
毎年花の色が変わるので
それがまた、人を魅了するひとつとなっていたから。
「 同じひとり同士なのに、梅の木さんは凄いなぁ。
毎年少しずつ花の色を変化させていくなんて
ワタシにはとても出来ない。素敵だなぁ。」
桜の木はその憧れを持ち続けていた。
ある年
その桜の木の憧れが花弁となり
風のいたずらによって梅の木へ届いた。
花弁は、梅の花たち一輪一輪へ伝えていた。
「 ありがとう。ありがとう。
いつも綺麗に咲いてくれてありがとう。」
それを聞いた梅の木は、花弁を震わせて泣いた。
桜の木の存在の大きさと優しさに、いつまでも泣いていた。
その翌年から、桜と梅の木は毎年同じ日に開花するようになったという。
伝説にもおとぎ話にもなっていない。
その小川にある桜と梅の木だけの秘密。
なぜ私が知っているのかって ?
それは・・・
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