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恋心も10年こじらせると永遠になるかもしれない

10年こじらせた恋があった。
相手は高校時代の先輩で、初めて心の底から好きになった人だった。

大好きだったのに、付き合っていた頃のことはよく覚えていない。
よく覚えているのは、初めて二人で寄り道した日、仕事帰りの母にばったり出くわしたこと。初めて私の家に招いた日、学校帰りで疲れていたのか私のベッドで爆睡されたこと。部屋が汚いからと掃除を手伝いに行ったら、掃除が終わると同時に帰らされたこと。夏祭りの帰りにわがままを言って初めてのキスをしてもらったこと。

彼とはとてもピュアなお付き合いをしていた。
夏祭りのキス以外、彼に触れることはなかった。
手も繋がなかったと思う。
一緒に学校から帰るときも、私は彼の少し後ろを歩いた。
ときどきメールを交換して、学校ですれ違うときに少し話して、3年生の教室に彼を迎えに行くのもいつの間にか慣れていたけど、私は彼の「妹」だった。

別れの日、「友達に戻ってください」と告げた。
別れたくなかった。別れたくなかったけど、彼は私より少し先におとなになる。そんな彼を引き止めたくなかった。
たくさん泣いたし、失恋のショックで学校に通えなくなり、私は後に学年最下位の成績、単位ギリギリで高校を卒業することになった。

(彼と別れて自暴自棄に同級生と遊んだり、断る理由もないからと今の彼氏と付き合い始めたりしたが、それはまた別の話。ちなみに、人生はあの頃想像していたところからだいぶ違うところにいる)

彼と別れ、どうにか高校を卒業し、私も大学生になった。
一人暮らしで好き勝手しながらも、元彼となった彼とは奇妙な関係が続いていた。
彼は律儀に私の友達でいてくれた。
付き合っていた頃から変わった人だと思っていたが、やっぱりちょっと変な人だなと思った。

年に数回、私が実家に帰省する夏休みや春休みに二人で買い物に出かけた。
なんでもない話をして笑って、ふざけあって、ただそれだけ。
それがとても楽しかったし、不思議なことに、付き合っていたころより距離が近かった。

手をつないでもいいですか?と聞くと、いいよ、と骨ばっているのに滑らかな手が触れてくる。
おみくじに残念な結果が書かれていると、頭を重たい手がなでてくる。
筋肉質になった体を指摘すると、二の腕触っていいよ、と手を掴まれて腕に持っていかれる。
君はふにゃふにゃだな、と私の二の腕をつまんで笑う。

これが全部夢じゃないのが面白くて笑ってしまう。
「恋人」だった頃よりずっと近い位置で、彼の笑顔が見れることが嬉しかった。

彼に最後に会ったのは、まだマスクがいらなかったころの秋の日。
「あなたへの気持ちを10年こじらせています」と笑うと、「こじらせすぎだろ」と笑ってくれた。
否定も肯定もせず、宙ぶらりんにするズルイところがすきだ。

その日、彼は飲みたかったドリンクをいつの間にか買ってくれていた。
ほしかったリップを買ってくれた。
彼が何かを買ってくれたことなんて今まで一度もなかったのに。
嬉しさの中に一抹の不安が胸を過ぎった。
これが杞憂であればいいと思う。

彼の誕生日に初めて贈り物をした。
何がすきだったのか覚えてなくて、ガトーショコラを贈った。

パソコンを買い替えたくてアドバイスを求めた。
おすすめのパソコンを2台教えてくれた。

私の誕生日にメッセージが届いた。
いつも大幅に遅刻するのに、今年は当日に届いた。
「はぴばー」だって。


今私は、彼とは違う人と未来を生きようとしている。
それでも、彼とは変わらない距離のまま、そっとずっとこの気持ちを抱いていたい。
彼にとってわたしは友達なのか、妹なのか、世話の焼ける後輩なのかわからないけれど。
何でもいいからこのあたたかな気持ちが永遠になればいい。

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