見出し画像

農業エンジニアの移住ドタバタ日記(4)~規格か規格外か?〇をつけよ~

本記事をご覧くださいましてありがとうございます。はじめまして。私は、山梨県北杜市に移住した農業エンジニア(Ph.D. (農学))です。2023年7月に前居住地から引っ越し、犬猫とともに、この地にやってきました。以前は、とある地方の教育・研究機関に所属し、教育・研究に携わっていました。さて、そんな農業エンジニアが、身を置く環境を変え、日々に感じたことを、ゆるゆると綴ってゆきたいと思います。

さて、今回は、生鮮食品、とくに野菜・果物などでよく耳や目にする「規格」についてのお話です。「規格外品のお野菜・果物」とは、形や色が「規定の形状」ではない品物です。例えば、キュウリですと、本来はまっすぐであるべき形状なのに、所定以上に曲がってしまった、とか、あるいは、果物ですと、果実の大きさが基準に少し足りない(小さすぎる)、とか、そんな類のものです。さらに、飲食関係に視線を移すと、例えば「規格外品のお野菜や果物を使ったスムージー」なんてメニューも、なじみがありますね。「「規格」に合わなかった野菜や果物だけれど、中身の味は同じですよ、同じ品質で形状がちょっと。。。ってだけだから、お安くてお得ですよ!」みたいなやつです。規格外「だけれど」~~~、のストーリで語られていますね。規格外「だけれど」という枕詞がポイントです。

ところが、です。最近、移住しまして、お花を生ける教室が近所にありましてね。ご縁があって、そこで「踊り菊」という花に出会ったのです。「踊り菊」というのは品種の名前ではなくて、キクの生育の過程で、光などの生育環境によって、茎が曲がったものを指すそうです。通常、キクは、支柱や倒伏防止のネットなどの支えを施して、茎はまっすぐに伸びるように栽培します。茎はまっすぐ、全長~~センチで、花首~~センチで開花させる、というのが「規格(S、M、Lとか、特、上、中とか)」に合うお品物、ということになります。

踊り菊 *オレンジのお花@花竹清堂、竹清堂

一方、この「踊り菊」は、茎が様々に曲がっているからこそ、面白い活け方ができる花材なのだそうです。「曲がっているから」「規格でないから」、そこが良い、とするのですね。

踊り菊 *白いお花@花竹清堂、竹清堂

いままでの自分が接していた農業では「規格外だけれども、悪くないのよ」という考え方が、「規格外だから、面白いのよ」の世界線に変わったわけです。

ちょっとした、文字通りの「カルチャーショック」ですね。そんなことを考えているうち、ふと、作家の山田詠美さんの作品「ぼくは勉強ができない」という小説の「〇をつけよ」という章を思い出しました。この章では、自身の価値観を確固たるものとするために、道しるべになるようなものが必要だが、それは常に揺らぐ、というようなことが語られています。(ぜひ、ご自身で著書をお読みになってくださいね)

山田詠美「ぼくは勉強ができない」 新潮文庫 ISBN 978-4-10-103616-8 https://www.shinchosha.co.jp/book/103616/#  より引用

規格に合うものは〇、合わないものは✖、という価値観もあれば、逆を示す価値観もある。規格は規格、それ以上でもそれ以下でもない、文脈によって、あるいは、手に取る人によって、〇か✖か△か、決まるかもしれない。それは、当事者の状況で変わるかもしれない。そういうことだったのかもしれないなぁ、と思いました。

少し話は変わって、キャリアパスにも、なんとなく、規格というか、定番というか、そのようなものがあるような気がします。高校に行って、大学に行って、大企業に行って、または公務員になって、、、、これって、普通・一般的・定番≒〇、と位置付けられるのが、まだまだ慣例でしょうね。それ以外の道を進んでしまった場合、例えば私のように、博士(農学)だけれども、多くの研究者のようにアカデミアの組織に所属せず、距離を置いた場で活動をする研究者・技術者は、、、

さてさて、〇か✖か△か。規格か、規格外か。そして、それは、誰が、いつ、何を基準に、決めるのでしょうね。いや、そもそも、〇や✖を付けることではないのかもしれない。茎が曲がっているという事実は変わらないけれど、「踊り菊」は、一般的な生花市場ではおそらくNGで、一方、生け花の論理や基準では〇をつけられる。白と黒の逆転。

さて、みなさんは、こういう経験はありますか?「〇と✖をつける価値観の揺らぎ」「〇✖のない価値観との出会い」みたいな??

さて、今回はここまでに致しましょう。では、また。。。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?